ヒカリはエドに何を質問するかを考え始めたが、パッと思い浮かぶものが無く黙ってしまった。

「めちゃくちゃ質問攻めじゃねえか!」

 エドは戸惑ったような口調でそう言った。

「あれ!」

 ヒカリはたこ焼き屋を指差す。

「たこ焼きを食べよう!」

 ヒカリはエドへの質問ではなく、たこ焼きを食べることを提案した。

「……おう!」

 エドはまた質問が来ると思っていたのか、少し安心した様子を見せた後、元気よくそう言った。



 ヒカリとエドは浜田海水浴場の傍にあるたこ焼き屋に到着した。たこ焼き屋に近づくと、男性店員が元気よく声をかけてきた。店員はこの男性一人のようだ。

「たこ焼き二つください!」

 ヒカリは元気よく注文をした。

「あいよ!」

 たこ焼き屋の店員は元気よく返事をした。

「私、ここのたこ焼き大好きなの!」

 ヒカリは笑顔でエドに向かって話す。

「うまいよな! 俺もたまに買いに来る!」

 エドもここのたこ焼きが好きなようだ。

「そうだ! 今度寮でたこ焼きパーティーしようよ!」

 ヒカリは少し興奮しながらエドに話す。

「それいいな! 魔女試験が終わったらやろう!」

 エドがそう言うと、二人とも固まってしまった。なんとなくだが、『魔女試験』という言葉が禁句のような扱いになっているのだろう。

「はい、お待ち! つまようじは一本でいいかい?」

 たこ焼き屋の店員は元気に笑顔でそう言った。

「二本で!」

 ヒカリとエドは同時に言った。ヒカリはカップル扱いされたのがわかったので、お互い気まずくなるのを避けるために、つまようじの本数を人数分にした方がいいと瞬時に思ったからだ。きっとエドも同じ考えなのだろう。

「…………あいよ」

 たこ焼き屋の店員は少しだけ悲しそうな表情でそう言いながら、注文したたこ焼き二つをエドに渡した。

 たこ焼きを受け取った後、ヒカリとエドは浜田海水浴場の海が見えるベンチに座った。ヒカリは自分の分のたこ焼き一パックをエドから受け取り、膝の上に置いて蓋を開ける。すると、たこ焼きの美味しそうな香りが漂ってきて、すぐさま、つまようじの刺さっていたたこ焼きを口の中に放り込んだ。

「おいしい!」

 ヒカリは久しぶりに食べるたこ焼きの味に感動した。

「うんまい!」

 エドも感動しているようだ。お互いたこ焼きにすごく感動したからか、次の瞬間にはハイタッチをしていた。

「やっぱり、ここのたこ焼きは最高だわー!」

 ヒカリはもう一つたこ焼きを口に放り込みながらそう言った。

「わかる! わかる!」

 エドもたこ焼きを食べながら興奮した様子で言う。ヒカリはたこ焼きを食べている自分と、隣にいてくれるエドについて改めて考えた。本当は仕事をしていたはずなのに違うことをしている。なんとなくだけど、ズルをしているような気もしてしまう。ただ、少しの時間でも魔女試験以外のことを考えるというのは、今の自分にとってすごく大事なことだと思う。たこ焼きもおいしいし、エドと話しながら散歩するのも楽しかった。ずっと長い間たくさん我慢してきたのだろう。

「…………エド。……ありがとう」

 ヒカリはエドに伝わって欲しい気持ちが込み上げてきた。

「ん?」

 エドはたこ焼きを食べながらヒカリの方を向いてそう言う。

「エドのおかげで、魔女試験でいっぱいになってた頭の中が落ち着いたみたい。……だから、本当にありがとう」

 ヒカリは少しだけ頭を下げてそう言った。

「本当か! それならよかった! ……ヒカリならきっと魔女になれるよ。俺はそう信じてるからさ」

 エドは笑顔を見せた後、優しい表情を浮かべながらそう言った。

「エド……。……ありがとう」

 ヒカリはエドの温かい気持ちがとても嬉しかった。それから、しばらくしてヒカリとエドは寮に戻っていった。



 ヒカリとエドが寮に戻ると空からリンとシホが降りてきた。

「お! そっちも帰ってきたか!」

 エドはリンとシホを見ながら言う。

「ヒカリちゃん、少しは落ち着いた?」

 シホは落ち着いた様子でそう言った。

「はい! シホさんはどうですか?」

 ヒカリは元気よく返事した後、シホを心配しながら質問した。

「私もだいぶ落ち着いたよ!」

 シホは笑顔でそう言った。

「さてと、それじゃいきますか!」

 エドとリンが口を揃えてそう言った瞬間、四人の中央から光が放たれたので、ヒカリはとっさに目を閉じた。

 ヒカリがゆっくりと目を開けると、目の前には美味しそうな料理が並んでいるテーブルがあって、ROSEの社員が着席していた。よく見るとここは寮の食堂のようだ。

「ようやく、主賓登場ね! さぁ、始めるよ! シホとヒカリの壮行会を!」

 マリーがそう言うと他の社員は盛り上がっていた。

「え。なにこれ」

 ヒカリはまだよくわかっていなかった。

「ふふ。ヒカリちゃん、皆が私たちのために壮行会を開いてくれたんだよ!」

 シホはヒカリの顔を見ながら笑顔でそう言った。ヒカリはやっと理解できて嬉しい気持ちが溢れてくる。

「せーの……皆さん! ありがとうございます!」

 シホはヒカリに合図を出しながら、シホとヒカリの二人でROSEの皆に向かって、大きな声で感謝の気持ちを伝えた。

「当たり前だろ! 壮行会くらいさせてくれよ! 輝いてるぞ二人とも! 頑張れよー! ずっと皆で応援してるからなー!」

 ROSEの皆がヒカリとシホに応援の言葉を投げかける。止まない応援の言葉にだんだんと胸が熱くなってくる。こんなにも応援してもらえることが嬉しくて、涙が出てくる。

「んぐっ。ん。ん」

 ヒカリはぐっと涙をこらえた。それは、皆の応援に対して、笑顔で元気よく応えた方がいいのかもしれないと、隣で涙をこらえているシホの様子を見て思ったからだ。

 やはり、シホは強い人だ。体が震えるほど涙をこらえているのが見ていてわかる。先輩だから泣きじゃくっている姿を見せたくないのか、人前で涙を流さないかっこいい自分でいたいからなのか、本当の理由はわからない。だけど、きっとROSEの皆が安心できるような、強い人間であることを見せたいのだろう。だからこそ、こんなにも我慢しているはずだ。魔女見習いの先輩を見習って、自分もここは笑顔で応えよう。そんなことを考えていると、シホが一歩前に進んだ。

「うわぁーーん! みんなありがどおおおおーーーーー!」

 シホが号泣しながら大声で言った。ヒカリはシホに対して、思わず心の中でツッコミを入れてしまった。でも、嬉しい感情を素直にさらけ出す人を見ていて、こんなにも気持ちがいいものだとは思わなかった。感動の涙はたとえ人前であろうと恥じるものではないと思った。だから、自分もシホと同じように素直になろう。ヒカリも一歩前に進みシホの横に並んだ。

「……ありがとう! 頑張るー!」

 ヒカリも泣きながらそう言った。すると、目の前にベルが歩いてきた。

「お二方は未成年ですので、こちらをどうぞ」

 ベルはそう言ってオレンジジュースを渡してきたので受け取る。

「それじゃ、皆グラス持ってるか? いくぞ! ……ROSE株式会社、魔女見習いシホとヒカリの二名が、魔女試験に合格することを祈念して、カンパーイ!」

 マリーが大きな声でそう言うと、社員一同も大きな声で『カンパーイ!』と言った。それから、ヒカリとシホのための壮行会が盛大に行われた。