「……ヒカリ、魔法を信じてないだろ?」
ずっと黙っていたエドが口を開いた。ヒカリはエドの急な質問に対して、今まで考えたこともないような内容だったので焦った。
「えっ? ……そ、そんなことないよ! マリーさんの魔法も見たことあるし、エドにも空を飛ぶ魔法を見せてもらったし!」
ヒカリは魔法を信じていないわけがないと思った。
「実は、魔法を発動させるのには、そんなにテクニックはいらないんだ。というのも魔女修行自体、魔法を発動してからの、維持・増幅・変化などの様々な魔力コントロールを身につけることが、メインだからさ。だから、そもそも魔法が発動しないっていうのは、ヒカリに何かが足りていないだけなんだ。……まぁ、それだけとはいえ、それが難しいことでもあるんだけどな」
エドは少し深刻そうな表情で言った。
「……そうなんだ」
ヒカリは落ち込んでしまった。
「俺の推測だけど、『魔法を信じること』が足りていないのかもな」
エドはそう言った。
「私、魔法を信じてないの……?」
ヒカリは下を向きながら言った。
「わからん。でも、なんとなくそう思う。……ヒカリには、一度自分の気持ちを整理する時間が必要だ。だから、今日の修行はこれで終わりにしよう」
エドがヒカリの肩に片手を置いて、少しだけ優しそうな口調で言った。ヒカリはうなずき心の整理がつかないまま寮に帰る。
その日の夜、ヒカリは照明を落とした暗い部屋で布団に入り、魔法が発動しない原因について考えていた。
「魔法を信じることか……。魔法が実在するってことは、実際に見たこともあるし、信じられるはず……。それでも、発動しないのはなぜだろう……。…………うーん」
魔法が発動しなければ、魔女修行が本格的に始められない。それを考えると焦りが増していく。
「エドも……。あんなに期待して見守ってくれていたのに……。もしかして、私には魔法の才能が無いのかな……。……んー。……そんなの嫌だ。……でも。……そう思ってしまう。……本気でなりたいのに。……ダメなのかな。…………あー」
頭の中で様々な不安がグルグルと回り続けて、結果的に気持ちの整理はできなかった。
次の日の午前の仕事が終わりお昼休みになった。ヒカリは更衣室のロッカーからコンビニで買っておいた弁当を取り出し、シホのもとへ向かう。
「シホさーん! ご飯食べましょう!」
ヒカリは、いつも通りシホと一緒に昼食を食べるために声をかけた。
「ごめん! ちょっとマリーさんからお使いを頼まれてて、お昼は外で食べてくる予定なんだ!」
シホは申し訳なさそうに言った。
「そうですか……」
ヒカリはシホと昼食を食べたかったのに、と残念な気持ちになった。
「ごめんね!」
シホはそう言うと足早に会社を出ていった。
いつもシホと一緒に昼食を食べる場所は、霧島ヶ丘公園の広場にある錦江湾がよく見える場所。そこの原っぱに座って食べるのが一番気持ちがいい。シホがいない日でも、お気に入りの場所での昼食は欠かせない。ヒカリはいつも通り昼食を食べ始める。
「シホさんに相談しようと思ったのになー」
ヒカリはぼやいた。
「こんにちは」
急に後ろから声が聞こえてきたので慌てて振り向くと、そこには長い金髪の女性が笑顔で立っていた。白シャツに黒ズボン、そして黒のハイヒールという清楚な雰囲気をかもしつつ、誰がどう見ても美人としか思えない顔やスタイルだったので、一瞬で魅了されてしまった。
「こ、こんにちは!」
ヒカリは戸惑いながらも挨拶を返した。
「あなた、魔女見習いでしょ? はじめまして。私の名前は、シェリー。世界を自由気ままに飛び回っている魔女よ。私もこの場所でお昼を食べるのが好きだから、隣でご一緒してもいいかしら?」
シェリーは笑顔でそう言った。
「こ、こちらこそ、はじめまして! ヒカリといいます! えっと、隣、どうぞ!」
ヒカリはROSE以外の魔女に初めて会ったので、緊張しながら答えた。すると、シェリーはひと言ありがとうと言って、ヒカリの隣に座る。隣に座ったシェリーを見てみても、ただ座っているだけなのにとにかく色っぽいのが気になる。大人の女性のフェロモンというのは、こういうものなのかと思いつつ、美人という生き物の素晴らしさに只々感動した。
「あら。そんなに美人かしら。褒めてくれてありがとうね」
シェリーは笑顔でヒカリの顔を覗き込みながらそう言った。
「いえいえ…………」
ヒカリはとっさにそう答えた。だが、自分がそんな発言をしたわけではなく、心の中で思っていただけだったので、他人の心が読めるシェリーに驚いた。さすがは魔女だと思った。
「風が気持ちいいわね」
シェリーは長い髪を耳にかけながらそう言った。
「そうですね。ここでご飯食べると、何でもおいしくなっちゃうんですよね」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「そうね……」
シェリーは静かにそう言った。ヒカリはシェリーが発言しなくなったのが気になり、様子を見てみると、少し離れた遊具で遊んでいる子供たちを、じっと見ていることに気づいた。
「…………私、小さい頃に友達が全然できなくて、悩んでいたことがあったの」
シェリーは遊具で遊んでいる子供たちを見たまま、落ち着いた様子でそう言った。
「えっ? そうなんですか?」
ヒカリはなんとなくだが、シェリーが美人だから、友達にも恵まれていそうだと思ったので驚いた。
「その時、ずっと悩んでいて……。悩んでいる間にも、どんどん他人が怖くなってしまって……」
シェリーは少しだけ悲しそうな表情をし、また少しだけ沈黙する。ヒカリはシェリーの悲しそうな表情を見て、自分が思っていた『美人だから友達にも恵まれていそう』という考え方自体が、とても安易なものだと気づいてしまった。こんなにもシェリーが真剣な話をしているのに、そんなことしか考えられない自分がすごく恥ずかしい。ヒカリは下唇を噛みながらそう思った。
「……でもね。そんなある日、ある人の言葉が気づかせてくれたの」
シェリーは沈黙を破り悲しそうな表情をやめ、再び話し始めた。
「『相手が自分を信じていないから友達になってくれない』ではなく、『自分が相手を信じていないから友達になってくれない』ってね。……その通りだと思った。自分が相手を信じていないから、本当は友達になってくれる人に対しても、拒絶していたわけで。そんなことしていたら、友達なんか一生できっこないよね」
シェリーは真剣な表情で最後は苦笑いを浮かべながら言った。
「それで、自分が相手を信じられるようになったら、自然と友達もできていったの」
シェリーは微笑みながら言った。
「そうだったんですね……」
ヒカリはシェリーの話を聞いてすごく勉強になった。きっとこの話は誰にとっても大事な考え方だと思うから。
「……だから、『どうせできない』とか、『できないかもしれない』と思っている人に、本当に欲しい物は得られないのよ」
シェリーは遠くの何かを見つめながらそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて急に胸が熱くなる。
「…………それは、魔法も同じよ」
シェリーはヒカリの顔を見て、真剣な表情でそう言った。ヒカリはその言葉に胸を打たれた。
「ごめんね。ちょっと長話になっちゃって、おばさん臭かったね」
シェリーは笑顔でそう言った。
「そ、そんなことないです! めちゃくちゃ美人だし! それに、シェリーさんが話してくれたことが、私が今悩んでいることにも同じことが言えると思ったので、すごく助かりました! だからむしろ、ありがとうございます!」
ヒカリは感謝の気持ちを込めてシェリーに頭を下げた。
「あら。それはよかったわ。……それじゃ、また一緒にご飯しましょう」
シェリーは立ち上がりながら言う。
「はい! ぜひ、いつでも!」
ヒカリが元気よく言うとシェリーは去っていった。
その日の退勤後になり、ヒカリはエドと一緒に霧島ヶ丘公園の広場で、魔女修行を始めた。
「じゃ、昨日の続きをしていくぞ」
エドはそう言った。
「うん!」
ヒカリは元気よく言った後、ほうきにまたがった。少しの間、目を閉じて精神を落ち着かせることから始める。そして、しばらくすると周りの音が気にならなくなったので、精神が落ち着いてきたのだと思った。今回はきっと魔法が発動するはず。だから、今の自分を強く信じて挑戦しよう。
「魔女玉に精神を集中……」
なんだか胸のあたりが少し温かくなってきた気がした。ただ、余計なことに意識を持っていかれないような注意が必要だ。
「自分が空を飛ぶイメージを浮かべる……」
ヒカリは空を飛ぶイメージを浮かべたが、魔法は発動しない。
「…………それから、最後に。……私は魔法を信じている。……魔女は魔法を使える」
ヒカリは魔法の発動に必要だと言われた、魔法を信じる気持ちを高めていこうとした。
「そしてーー!」
ヒカリは目を大きく開き、自分が魔法を発動するのに不足していたものが、『自分自身が魔法を使えると信じること』だと確信し、力強く大声で言った。
「私だって魔女だから! 魔法を使えるんだああああああ!」
ヒカリは大声で叫んだ。その瞬間、目の前に強い光が放たれた。
「うわっ!」
エドが驚いているような声で言った。光が眩しくて何も見えない。
「……エド。……私」
ヒカリは不思議な感覚を感じ、戸惑いながらそう言った。
「もしかして!」
エドはそう言った。
「浮いてる!」
ヒカリがそう言うと、ヒカリの周りの強い光が消えていく。
「めちゃくちゃ少しだけど! 浮いてる!」
エドは元気よく嬉しそうにそう言った。ただ、エドが言うとおり、見える景色もエドの胸の高さほどで、浮いているほうきに逆さになってしがみついているような状態だった。
「えへへ」
ヒカリは嬉しくて笑った。すると、集中が途切れたせいか魔法が解けた。
「うわっ!」
ヒカリは地面に落ちると思って驚いたが、エドがお姫様抱っこで抱えてくれたので、地面に叩きつけられずに済んだ。
「おめでとう!」
エドは嬉しそうな声でそう言った。
「えへへ……。できた……。空……飛べた」
ヒカリは笑顔で少しだけ涙を流しながら言った。とにかく魔法を使ったからなのか体に力が全く入らない。
「あぁ、すげえな、ヒカリ! よく頑張った!」
エドは温かくて優しかった。
そして、そのエドの言葉を最後になんだか急に眠くなった。
ずっと黙っていたエドが口を開いた。ヒカリはエドの急な質問に対して、今まで考えたこともないような内容だったので焦った。
「えっ? ……そ、そんなことないよ! マリーさんの魔法も見たことあるし、エドにも空を飛ぶ魔法を見せてもらったし!」
ヒカリは魔法を信じていないわけがないと思った。
「実は、魔法を発動させるのには、そんなにテクニックはいらないんだ。というのも魔女修行自体、魔法を発動してからの、維持・増幅・変化などの様々な魔力コントロールを身につけることが、メインだからさ。だから、そもそも魔法が発動しないっていうのは、ヒカリに何かが足りていないだけなんだ。……まぁ、それだけとはいえ、それが難しいことでもあるんだけどな」
エドは少し深刻そうな表情で言った。
「……そうなんだ」
ヒカリは落ち込んでしまった。
「俺の推測だけど、『魔法を信じること』が足りていないのかもな」
エドはそう言った。
「私、魔法を信じてないの……?」
ヒカリは下を向きながら言った。
「わからん。でも、なんとなくそう思う。……ヒカリには、一度自分の気持ちを整理する時間が必要だ。だから、今日の修行はこれで終わりにしよう」
エドがヒカリの肩に片手を置いて、少しだけ優しそうな口調で言った。ヒカリはうなずき心の整理がつかないまま寮に帰る。
その日の夜、ヒカリは照明を落とした暗い部屋で布団に入り、魔法が発動しない原因について考えていた。
「魔法を信じることか……。魔法が実在するってことは、実際に見たこともあるし、信じられるはず……。それでも、発動しないのはなぜだろう……。…………うーん」
魔法が発動しなければ、魔女修行が本格的に始められない。それを考えると焦りが増していく。
「エドも……。あんなに期待して見守ってくれていたのに……。もしかして、私には魔法の才能が無いのかな……。……んー。……そんなの嫌だ。……でも。……そう思ってしまう。……本気でなりたいのに。……ダメなのかな。…………あー」
頭の中で様々な不安がグルグルと回り続けて、結果的に気持ちの整理はできなかった。
次の日の午前の仕事が終わりお昼休みになった。ヒカリは更衣室のロッカーからコンビニで買っておいた弁当を取り出し、シホのもとへ向かう。
「シホさーん! ご飯食べましょう!」
ヒカリは、いつも通りシホと一緒に昼食を食べるために声をかけた。
「ごめん! ちょっとマリーさんからお使いを頼まれてて、お昼は外で食べてくる予定なんだ!」
シホは申し訳なさそうに言った。
「そうですか……」
ヒカリはシホと昼食を食べたかったのに、と残念な気持ちになった。
「ごめんね!」
シホはそう言うと足早に会社を出ていった。
いつもシホと一緒に昼食を食べる場所は、霧島ヶ丘公園の広場にある錦江湾がよく見える場所。そこの原っぱに座って食べるのが一番気持ちがいい。シホがいない日でも、お気に入りの場所での昼食は欠かせない。ヒカリはいつも通り昼食を食べ始める。
「シホさんに相談しようと思ったのになー」
ヒカリはぼやいた。
「こんにちは」
急に後ろから声が聞こえてきたので慌てて振り向くと、そこには長い金髪の女性が笑顔で立っていた。白シャツに黒ズボン、そして黒のハイヒールという清楚な雰囲気をかもしつつ、誰がどう見ても美人としか思えない顔やスタイルだったので、一瞬で魅了されてしまった。
「こ、こんにちは!」
ヒカリは戸惑いながらも挨拶を返した。
「あなた、魔女見習いでしょ? はじめまして。私の名前は、シェリー。世界を自由気ままに飛び回っている魔女よ。私もこの場所でお昼を食べるのが好きだから、隣でご一緒してもいいかしら?」
シェリーは笑顔でそう言った。
「こ、こちらこそ、はじめまして! ヒカリといいます! えっと、隣、どうぞ!」
ヒカリはROSE以外の魔女に初めて会ったので、緊張しながら答えた。すると、シェリーはひと言ありがとうと言って、ヒカリの隣に座る。隣に座ったシェリーを見てみても、ただ座っているだけなのにとにかく色っぽいのが気になる。大人の女性のフェロモンというのは、こういうものなのかと思いつつ、美人という生き物の素晴らしさに只々感動した。
「あら。そんなに美人かしら。褒めてくれてありがとうね」
シェリーは笑顔でヒカリの顔を覗き込みながらそう言った。
「いえいえ…………」
ヒカリはとっさにそう答えた。だが、自分がそんな発言をしたわけではなく、心の中で思っていただけだったので、他人の心が読めるシェリーに驚いた。さすがは魔女だと思った。
「風が気持ちいいわね」
シェリーは長い髪を耳にかけながらそう言った。
「そうですね。ここでご飯食べると、何でもおいしくなっちゃうんですよね」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「そうね……」
シェリーは静かにそう言った。ヒカリはシェリーが発言しなくなったのが気になり、様子を見てみると、少し離れた遊具で遊んでいる子供たちを、じっと見ていることに気づいた。
「…………私、小さい頃に友達が全然できなくて、悩んでいたことがあったの」
シェリーは遊具で遊んでいる子供たちを見たまま、落ち着いた様子でそう言った。
「えっ? そうなんですか?」
ヒカリはなんとなくだが、シェリーが美人だから、友達にも恵まれていそうだと思ったので驚いた。
「その時、ずっと悩んでいて……。悩んでいる間にも、どんどん他人が怖くなってしまって……」
シェリーは少しだけ悲しそうな表情をし、また少しだけ沈黙する。ヒカリはシェリーの悲しそうな表情を見て、自分が思っていた『美人だから友達にも恵まれていそう』という考え方自体が、とても安易なものだと気づいてしまった。こんなにもシェリーが真剣な話をしているのに、そんなことしか考えられない自分がすごく恥ずかしい。ヒカリは下唇を噛みながらそう思った。
「……でもね。そんなある日、ある人の言葉が気づかせてくれたの」
シェリーは沈黙を破り悲しそうな表情をやめ、再び話し始めた。
「『相手が自分を信じていないから友達になってくれない』ではなく、『自分が相手を信じていないから友達になってくれない』ってね。……その通りだと思った。自分が相手を信じていないから、本当は友達になってくれる人に対しても、拒絶していたわけで。そんなことしていたら、友達なんか一生できっこないよね」
シェリーは真剣な表情で最後は苦笑いを浮かべながら言った。
「それで、自分が相手を信じられるようになったら、自然と友達もできていったの」
シェリーは微笑みながら言った。
「そうだったんですね……」
ヒカリはシェリーの話を聞いてすごく勉強になった。きっとこの話は誰にとっても大事な考え方だと思うから。
「……だから、『どうせできない』とか、『できないかもしれない』と思っている人に、本当に欲しい物は得られないのよ」
シェリーは遠くの何かを見つめながらそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて急に胸が熱くなる。
「…………それは、魔法も同じよ」
シェリーはヒカリの顔を見て、真剣な表情でそう言った。ヒカリはその言葉に胸を打たれた。
「ごめんね。ちょっと長話になっちゃって、おばさん臭かったね」
シェリーは笑顔でそう言った。
「そ、そんなことないです! めちゃくちゃ美人だし! それに、シェリーさんが話してくれたことが、私が今悩んでいることにも同じことが言えると思ったので、すごく助かりました! だからむしろ、ありがとうございます!」
ヒカリは感謝の気持ちを込めてシェリーに頭を下げた。
「あら。それはよかったわ。……それじゃ、また一緒にご飯しましょう」
シェリーは立ち上がりながら言う。
「はい! ぜひ、いつでも!」
ヒカリが元気よく言うとシェリーは去っていった。
その日の退勤後になり、ヒカリはエドと一緒に霧島ヶ丘公園の広場で、魔女修行を始めた。
「じゃ、昨日の続きをしていくぞ」
エドはそう言った。
「うん!」
ヒカリは元気よく言った後、ほうきにまたがった。少しの間、目を閉じて精神を落ち着かせることから始める。そして、しばらくすると周りの音が気にならなくなったので、精神が落ち着いてきたのだと思った。今回はきっと魔法が発動するはず。だから、今の自分を強く信じて挑戦しよう。
「魔女玉に精神を集中……」
なんだか胸のあたりが少し温かくなってきた気がした。ただ、余計なことに意識を持っていかれないような注意が必要だ。
「自分が空を飛ぶイメージを浮かべる……」
ヒカリは空を飛ぶイメージを浮かべたが、魔法は発動しない。
「…………それから、最後に。……私は魔法を信じている。……魔女は魔法を使える」
ヒカリは魔法の発動に必要だと言われた、魔法を信じる気持ちを高めていこうとした。
「そしてーー!」
ヒカリは目を大きく開き、自分が魔法を発動するのに不足していたものが、『自分自身が魔法を使えると信じること』だと確信し、力強く大声で言った。
「私だって魔女だから! 魔法を使えるんだああああああ!」
ヒカリは大声で叫んだ。その瞬間、目の前に強い光が放たれた。
「うわっ!」
エドが驚いているような声で言った。光が眩しくて何も見えない。
「……エド。……私」
ヒカリは不思議な感覚を感じ、戸惑いながらそう言った。
「もしかして!」
エドはそう言った。
「浮いてる!」
ヒカリがそう言うと、ヒカリの周りの強い光が消えていく。
「めちゃくちゃ少しだけど! 浮いてる!」
エドは元気よく嬉しそうにそう言った。ただ、エドが言うとおり、見える景色もエドの胸の高さほどで、浮いているほうきに逆さになってしがみついているような状態だった。
「えへへ」
ヒカリは嬉しくて笑った。すると、集中が途切れたせいか魔法が解けた。
「うわっ!」
ヒカリは地面に落ちると思って驚いたが、エドがお姫様抱っこで抱えてくれたので、地面に叩きつけられずに済んだ。
「おめでとう!」
エドは嬉しそうな声でそう言った。
「えへへ……。できた……。空……飛べた」
ヒカリは笑顔で少しだけ涙を流しながら言った。とにかく魔法を使ったからなのか体に力が全く入らない。
「あぁ、すげえな、ヒカリ! よく頑張った!」
エドは温かくて優しかった。
そして、そのエドの言葉を最後になんだか急に眠くなった。