季節も夏となり、毎日暑い日が続いていた。そんなある日の夕方、退勤時間が迫った時だった。マリーがケンタ・エド・リンをマリーの机の前に呼び出した。ヒカリはマリーが何を話すのかが気になったので耳を澄ませる。
「明日の話だけど、あんたらは、さつま芋の収穫の手伝いをやってきてもらうよ」
マリーは三人に向けて言った。
「いやいや! きつ過ぎるって! 俺はもういいだろ!」
エドは納得いかない様子だ。
「はぁ? 何言ってんのよ? 依頼があるんだから当然でしょ」
マリーはそう言った。
「違う! 俺はもう二週間もほぼ毎日農作業してんだぞ! このままじゃ俺はガチの農家になってしまうだろ! いい加減さ、肉体労働以外の仕事を回してくれよ!」
エドは農作業以外の仕事を求めているようだ。
「うるさいわね! あんたは肉体労働以外できないでしょ!」
マリーは少し怒りながら言う。
「は? 俺も事務仕事とかできるわ! そりゃ、小難しいことはできねえけど。書類運んだりとか、荷物運んだりとか……。……あれ? でもそれって結局、肉体労働じゃね? えっ、肉体労働しかできねえのか俺は? マジかよ? 嘘だろ?」
エドは頭を抱えて自問自答し始めた。
「シホ! ヒカリ! ちょっとおいで!」
マリーが少し大きな声でそう言ったので、席を立ちマリーのところへ向かう。
「せっかくだから、シホとヒカリも明日一緒にさつま芋の収穫に行ってきなさい」
マリーはさつま芋の収穫を指示した。
「えっ。でも、受付の仕事はどうします?」
シホはマリーに問いかける。
「大丈夫。代わりは誰かにやってもらうわよ」
マリーはそう言った。
「それならいいですけど」
シホは少し心配そうな表情でそう言った。
「魔女になるためには、こういう仕事もやっていなかなきゃね」
マリーは真剣な表情でそう言った。
次の日の朝、ヒカリはエド・リン・シホと一緒に寮の駐車場にいた。そこへ迎えに来たケンタの車に乗って依頼主のさつま芋畑に向かう。三十分後、依頼主のさつま芋畑に到着し、さつま芋畑の奥の民家に行くと、家の縁側にお爺さんが座っていた。
「こんにちは。さつま芋の収穫のお手伝いにきました」
ケンタが代表してお爺さんに話しかける。
「いやー、すごく助かるよ。先日のグランドゴルフで腰をやっちゃってね……」
さつま芋畑のお爺さんは腰を押さえながらそう言った。
「それは大変ですね! まぁ、今は無理しないで休んでいてください」
ケンタはお爺さんに対して優しく気づかっていた。
「おー。助かるわ」
さつま芋畑のお爺さんもほっとした様子だ。その後、ケンタがお爺さんから詳しい作業内容を確認し、収穫作業を開始した。
「それじゃ、やってくぞ。エドとリンはそっちの畑をお願いな」
ケンタがエドとリンに隣の畑を指差しながら指示を出す。
「リン! どっちがたくさん収穫できるか勝負だ!」
エドが片方の手でリンを指差し、もう片方の手を腰に当てながら宣戦布告した。
「望むところだ!」
リンがそう答えると二人とも瞬時に収穫作業を始め、ものすごい勢いでさつま芋を収穫していく。
「……そんじゃ、俺とシホとヒカリはこっちの畑をやるか」
ケンタはエドとリンのやり取りに対して、特にリアクションも取らず、何事も無かったかのようにそう言った。
「はい!」
ヒカリはシホと一緒に元気よく返事をした。
「でも実は私、さつま芋の収穫ってやったことないので、どうしたらいいのかわからないです」
「私もです!」
シホがさつま芋収穫作業が未経験だと言ったので、ヒカリも便乗して伝えた。すると、ケンタはさつま芋の埋まっている土の傍にしゃがみ込んだ。
「じゃ、やってみせるからよく見ててな。こうやって、さつま芋の近くの土を軽く掘ってあげて……。さつま芋がいい感じに見えてきたら……。抜く! こんな感じだ」
ケンタはそう言って土に埋まっているさつま芋を抜いた。
「おー!」
ヒカリはシホと一緒にケンタがさつま芋を抜いた光景を見て、思わず拍手してしまった。ヒカリもさつま芋の埋まっている土の前にしゃがみ込む。
「おーし! やるぞ! えーっと、周りの土を掘って……。抜く!」
ヒカリが思いっきりさつま芋を引き抜こうとしたところ、茎が切れてしまい、肝心のさつま芋が出てこなかった。
「もう少し、土を掘ってあげた方が良かったな」
ケンタはそう言った。
「ヒカリちゃーん! 見て見てー!」
シホの声が聞こえたので、シホの方を見てみると、なんと大物のさつま芋を収穫していた。
「すごーい! めちゃくちゃ大物じゃないですか!」
ヒカリは大物のさつま芋に興奮した。
「すごい気持ち良かった!」
シホはさつま芋が抜けたのが嬉しかったのだろう、満面の笑顔でそう言った。
「シホ、その調子だ!」
ケンタもシホが上手にさつま芋を抜くことができて嬉しそうだ。ヒカリももう一度挑戦してみる。
「……おりゃー!」
ヒカリが茎を持って思いっきり引っ張った。すると、今度は茎が切れずにさつま芋を抜くことができた。
「抜けた! ……気持ちいい。楽しいかも」
さつま芋が上手に抜けるとものすごく気持ちが良かった。
「それそれ!」
ケンタとシホが笑顔で言った。
「それじゃ、ボチボチやっていくよ!」
ヒカリとシホがさつま芋の収穫方法を分かったところで、本格的に作業が始まった。
それからは、とにかく黙々とさつま芋を収穫する。だが、一時間以上作業しても広い畑のほんの少しだけしか収穫が終わっていないので、気の遠くなるような作業だと気づいた。だんだん体力的にも辛くなってくる。ケンタとシホを見てみると、二人とも息を切らしながら辛そうな表情だった。
ヒカリはふと気になった。ケンタもエドもリンも魔法使いなのだから、魔法を使えば楽に収穫できるのになぜ使っていないのかと。辛い思いなんかしなくてもいいのなら、しない方がきっといいはず。だから、ケンタに魔法を使わない理由を聞いてみようと思った。
「ケンタさーん!」
ヒカリはケンタを呼ぶ。
「んっ? なんだ?」
ケンタは汗を拭いながらそう言った。
「どうして、皆魔法――」
その瞬間、以前ばら園で手入れをした時にハナが話してくれた、マリーが魔法で薔薇を枯らしてしまった話を思い出す。ケンタもエドもリンも魔法は使えるけど、さつま芋を傷つけないように、あえて使わないようにしているのではないか。ものすごい勢いで作業しているエドとリンも、一見乱暴に扱っているようにも見えるのだが、よく見ると、実はしっかりと丁寧に作業しているのがわかる。魔法だけじゃできないことがある、そういうことなのかと気づいた。
「どうした?」
ケンタはヒカリに問いかける。
「……やっぱり、なんでもないです!」
ヒカリは自分の中で疑問点が解決できたので、スッキリした表情でそう言った。
「そっか。……シホ! ヒカリ! もう少ししたら休憩にしよう!」
ケンタは汗を拭いながら元気よく言う。ヒカリとシホはうなずいた。
それから、こまめに休憩を入れつつ黙々と作業して、なんとか日没までに収穫作業を終えることができた。リンとエドは収穫勝負の判定で揉めているようだったが、リンの方が多い気がするというシホのざっくりした判定でリンが勝者となった。そして、全員で報告と挨拶をするために、依頼主のお爺さんのもとへ向かった。
「本当に助かったよ。ありがとう。……お嬢ちゃん達もすごい大変だったでしょ? ありがとうね」
依頼主のお爺さんは、家の縁側に座りながら笑顔でそう言った。ヒカリは今まで仕事をしていて、こんなにも心のこもったお礼をされたことがなかったので、すごく嬉しかった。シホの顔を見ても同じように嬉しそうな表情だ。自分の中にある収穫作業の疲れが、気持ちの良いものに変わっていくのがわかった。
「それと、一人一つずつ持って帰りなさい」
依頼主のお爺さんはそう言って、たっぷりさつま芋の入った袋を人数分渡してきた。
「いやいや、依頼料はもう頂いていますので申し訳……」
ケンタは途中で言葉を止めた。何かあったのかとケンタと依頼主のお爺さんを見ると、依頼主のお爺さんがすごく嬉しそうな表情で、ケンタを見ていたのだった。
「……いえ、お言葉に甘えて」
ケンタは依頼主のお爺さんに笑顔で言った。ケンタがエド・リン・シホ・ヒカリの顔を見た。
「せーの!……ありがとうございます!」
ケンタに合わせて全員で感謝の言葉を伝えた。
「また、貰いにおいで」
依頼主のお爺さんは、満足そうな笑みを浮かべながらそう言った。依頼主のお爺さんとお別れの挨拶をして、ケンタの車に乗り込みさつま芋畑を離れる。助手席に乗ったヒカリは、エアコンの風を顔に当てて至福の時間を過ごした。それから少し時間が経ち、エアコンの風がうっとおしくなってきたので、当たらないように向きを変える。
「ケンタさん。……働いて人に感謝されるって、すごく嬉しいことなんですね」
ヒカリは自分の横を流れていく木々を見ながら、落ち着いて言った。
「そりゃそうだ! ただ、いつも感謝されるわけじゃないけどな!」
ケンタはそう言った。
「正直言うと、働くのってめっちゃ疲れるし、辛いだけかと思っていました」
ヒカリは少しだけ目線を下げて言った。
「それはな、『自分が働くことで何が生まれるのかが分からないだけ』だと思うぞ!」
ケンタは少しアクセントを加えながらそう言った。
「……自分が働くことで生まれるもの?」
ヒカリはケンタの言葉が引っかかったので、ケンタの方を見ながら言う。
「そう! それが分かれば、どんな仕事でもきっと好きになれる!」
ケンタは笑顔でそう言った。
「…………。そうなんですねー。でも、まだよくわからないです」
ヒカリはケンタの言葉が理解できなかったので、首を傾げながらそう言った。
「まだまだ若いからそのうち分かってくるよ! 焦らんでも大丈夫!」
ケンタは変わらず笑顔でそう言った。
「……はい! 頑張ります!」
ヒカリはケンタに元気よく返事をした。ケンタの言っていることは、今はまだ理解できない。でも、きっと今だから理解できないだけなんだと思う。だから、もっと本当の大人になった頃に、もう一度確認してみよう。ROSEの人達と一緒に働いていけば、きっとわかるようになるはずだから。
「明日の話だけど、あんたらは、さつま芋の収穫の手伝いをやってきてもらうよ」
マリーは三人に向けて言った。
「いやいや! きつ過ぎるって! 俺はもういいだろ!」
エドは納得いかない様子だ。
「はぁ? 何言ってんのよ? 依頼があるんだから当然でしょ」
マリーはそう言った。
「違う! 俺はもう二週間もほぼ毎日農作業してんだぞ! このままじゃ俺はガチの農家になってしまうだろ! いい加減さ、肉体労働以外の仕事を回してくれよ!」
エドは農作業以外の仕事を求めているようだ。
「うるさいわね! あんたは肉体労働以外できないでしょ!」
マリーは少し怒りながら言う。
「は? 俺も事務仕事とかできるわ! そりゃ、小難しいことはできねえけど。書類運んだりとか、荷物運んだりとか……。……あれ? でもそれって結局、肉体労働じゃね? えっ、肉体労働しかできねえのか俺は? マジかよ? 嘘だろ?」
エドは頭を抱えて自問自答し始めた。
「シホ! ヒカリ! ちょっとおいで!」
マリーが少し大きな声でそう言ったので、席を立ちマリーのところへ向かう。
「せっかくだから、シホとヒカリも明日一緒にさつま芋の収穫に行ってきなさい」
マリーはさつま芋の収穫を指示した。
「えっ。でも、受付の仕事はどうします?」
シホはマリーに問いかける。
「大丈夫。代わりは誰かにやってもらうわよ」
マリーはそう言った。
「それならいいですけど」
シホは少し心配そうな表情でそう言った。
「魔女になるためには、こういう仕事もやっていなかなきゃね」
マリーは真剣な表情でそう言った。
次の日の朝、ヒカリはエド・リン・シホと一緒に寮の駐車場にいた。そこへ迎えに来たケンタの車に乗って依頼主のさつま芋畑に向かう。三十分後、依頼主のさつま芋畑に到着し、さつま芋畑の奥の民家に行くと、家の縁側にお爺さんが座っていた。
「こんにちは。さつま芋の収穫のお手伝いにきました」
ケンタが代表してお爺さんに話しかける。
「いやー、すごく助かるよ。先日のグランドゴルフで腰をやっちゃってね……」
さつま芋畑のお爺さんは腰を押さえながらそう言った。
「それは大変ですね! まぁ、今は無理しないで休んでいてください」
ケンタはお爺さんに対して優しく気づかっていた。
「おー。助かるわ」
さつま芋畑のお爺さんもほっとした様子だ。その後、ケンタがお爺さんから詳しい作業内容を確認し、収穫作業を開始した。
「それじゃ、やってくぞ。エドとリンはそっちの畑をお願いな」
ケンタがエドとリンに隣の畑を指差しながら指示を出す。
「リン! どっちがたくさん収穫できるか勝負だ!」
エドが片方の手でリンを指差し、もう片方の手を腰に当てながら宣戦布告した。
「望むところだ!」
リンがそう答えると二人とも瞬時に収穫作業を始め、ものすごい勢いでさつま芋を収穫していく。
「……そんじゃ、俺とシホとヒカリはこっちの畑をやるか」
ケンタはエドとリンのやり取りに対して、特にリアクションも取らず、何事も無かったかのようにそう言った。
「はい!」
ヒカリはシホと一緒に元気よく返事をした。
「でも実は私、さつま芋の収穫ってやったことないので、どうしたらいいのかわからないです」
「私もです!」
シホがさつま芋収穫作業が未経験だと言ったので、ヒカリも便乗して伝えた。すると、ケンタはさつま芋の埋まっている土の傍にしゃがみ込んだ。
「じゃ、やってみせるからよく見ててな。こうやって、さつま芋の近くの土を軽く掘ってあげて……。さつま芋がいい感じに見えてきたら……。抜く! こんな感じだ」
ケンタはそう言って土に埋まっているさつま芋を抜いた。
「おー!」
ヒカリはシホと一緒にケンタがさつま芋を抜いた光景を見て、思わず拍手してしまった。ヒカリもさつま芋の埋まっている土の前にしゃがみ込む。
「おーし! やるぞ! えーっと、周りの土を掘って……。抜く!」
ヒカリが思いっきりさつま芋を引き抜こうとしたところ、茎が切れてしまい、肝心のさつま芋が出てこなかった。
「もう少し、土を掘ってあげた方が良かったな」
ケンタはそう言った。
「ヒカリちゃーん! 見て見てー!」
シホの声が聞こえたので、シホの方を見てみると、なんと大物のさつま芋を収穫していた。
「すごーい! めちゃくちゃ大物じゃないですか!」
ヒカリは大物のさつま芋に興奮した。
「すごい気持ち良かった!」
シホはさつま芋が抜けたのが嬉しかったのだろう、満面の笑顔でそう言った。
「シホ、その調子だ!」
ケンタもシホが上手にさつま芋を抜くことができて嬉しそうだ。ヒカリももう一度挑戦してみる。
「……おりゃー!」
ヒカリが茎を持って思いっきり引っ張った。すると、今度は茎が切れずにさつま芋を抜くことができた。
「抜けた! ……気持ちいい。楽しいかも」
さつま芋が上手に抜けるとものすごく気持ちが良かった。
「それそれ!」
ケンタとシホが笑顔で言った。
「それじゃ、ボチボチやっていくよ!」
ヒカリとシホがさつま芋の収穫方法を分かったところで、本格的に作業が始まった。
それからは、とにかく黙々とさつま芋を収穫する。だが、一時間以上作業しても広い畑のほんの少しだけしか収穫が終わっていないので、気の遠くなるような作業だと気づいた。だんだん体力的にも辛くなってくる。ケンタとシホを見てみると、二人とも息を切らしながら辛そうな表情だった。
ヒカリはふと気になった。ケンタもエドもリンも魔法使いなのだから、魔法を使えば楽に収穫できるのになぜ使っていないのかと。辛い思いなんかしなくてもいいのなら、しない方がきっといいはず。だから、ケンタに魔法を使わない理由を聞いてみようと思った。
「ケンタさーん!」
ヒカリはケンタを呼ぶ。
「んっ? なんだ?」
ケンタは汗を拭いながらそう言った。
「どうして、皆魔法――」
その瞬間、以前ばら園で手入れをした時にハナが話してくれた、マリーが魔法で薔薇を枯らしてしまった話を思い出す。ケンタもエドもリンも魔法は使えるけど、さつま芋を傷つけないように、あえて使わないようにしているのではないか。ものすごい勢いで作業しているエドとリンも、一見乱暴に扱っているようにも見えるのだが、よく見ると、実はしっかりと丁寧に作業しているのがわかる。魔法だけじゃできないことがある、そういうことなのかと気づいた。
「どうした?」
ケンタはヒカリに問いかける。
「……やっぱり、なんでもないです!」
ヒカリは自分の中で疑問点が解決できたので、スッキリした表情でそう言った。
「そっか。……シホ! ヒカリ! もう少ししたら休憩にしよう!」
ケンタは汗を拭いながら元気よく言う。ヒカリとシホはうなずいた。
それから、こまめに休憩を入れつつ黙々と作業して、なんとか日没までに収穫作業を終えることができた。リンとエドは収穫勝負の判定で揉めているようだったが、リンの方が多い気がするというシホのざっくりした判定でリンが勝者となった。そして、全員で報告と挨拶をするために、依頼主のお爺さんのもとへ向かった。
「本当に助かったよ。ありがとう。……お嬢ちゃん達もすごい大変だったでしょ? ありがとうね」
依頼主のお爺さんは、家の縁側に座りながら笑顔でそう言った。ヒカリは今まで仕事をしていて、こんなにも心のこもったお礼をされたことがなかったので、すごく嬉しかった。シホの顔を見ても同じように嬉しそうな表情だ。自分の中にある収穫作業の疲れが、気持ちの良いものに変わっていくのがわかった。
「それと、一人一つずつ持って帰りなさい」
依頼主のお爺さんはそう言って、たっぷりさつま芋の入った袋を人数分渡してきた。
「いやいや、依頼料はもう頂いていますので申し訳……」
ケンタは途中で言葉を止めた。何かあったのかとケンタと依頼主のお爺さんを見ると、依頼主のお爺さんがすごく嬉しそうな表情で、ケンタを見ていたのだった。
「……いえ、お言葉に甘えて」
ケンタは依頼主のお爺さんに笑顔で言った。ケンタがエド・リン・シホ・ヒカリの顔を見た。
「せーの!……ありがとうございます!」
ケンタに合わせて全員で感謝の言葉を伝えた。
「また、貰いにおいで」
依頼主のお爺さんは、満足そうな笑みを浮かべながらそう言った。依頼主のお爺さんとお別れの挨拶をして、ケンタの車に乗り込みさつま芋畑を離れる。助手席に乗ったヒカリは、エアコンの風を顔に当てて至福の時間を過ごした。それから少し時間が経ち、エアコンの風がうっとおしくなってきたので、当たらないように向きを変える。
「ケンタさん。……働いて人に感謝されるって、すごく嬉しいことなんですね」
ヒカリは自分の横を流れていく木々を見ながら、落ち着いて言った。
「そりゃそうだ! ただ、いつも感謝されるわけじゃないけどな!」
ケンタはそう言った。
「正直言うと、働くのってめっちゃ疲れるし、辛いだけかと思っていました」
ヒカリは少しだけ目線を下げて言った。
「それはな、『自分が働くことで何が生まれるのかが分からないだけ』だと思うぞ!」
ケンタは少しアクセントを加えながらそう言った。
「……自分が働くことで生まれるもの?」
ヒカリはケンタの言葉が引っかかったので、ケンタの方を見ながら言う。
「そう! それが分かれば、どんな仕事でもきっと好きになれる!」
ケンタは笑顔でそう言った。
「…………。そうなんですねー。でも、まだよくわからないです」
ヒカリはケンタの言葉が理解できなかったので、首を傾げながらそう言った。
「まだまだ若いからそのうち分かってくるよ! 焦らんでも大丈夫!」
ケンタは変わらず笑顔でそう言った。
「……はい! 頑張ります!」
ヒカリはケンタに元気よく返事をした。ケンタの言っていることは、今はまだ理解できない。でも、きっと今だから理解できないだけなんだと思う。だから、もっと本当の大人になった頃に、もう一度確認してみよう。ROSEの人達と一緒に働いていけば、きっとわかるようになるはずだから。