転校初日の昼休み、一緒にお弁当を食べないかと誘ってくれたのは、月島早希という子だった。

「内藤優ちゃん、だよね?」

「うん、早希ちゃん、よろしくね。早希って呼んでもいい?」

「も、もちろん!じゃあ私も優って呼んじゃおうかな」

「うん」

早希は、これと言った特徴のない、内気な性格の子だった。

「うわぁ、優ちゃんのお弁当おいしそう」

「ありがと。っていうか、優って呼び捨てで呼ぶんじゃなかったの?」

「あっ!そうだった、ごめん」

「謝ることじゃないでしょ」

「う、うん、そうだね。そ、それより、優ちゃんの前いた学校って、どんなだったの?」

「ーーーーー」

私が、前にいた学校。

「優ちゃん?」

「…前いた、学校は」

「え?」

「ーーーーーなんでも、ない」

「東ヶ丘一高って、運動部がめちゃめちゃ強いんだよね、たしか」

運動部。

「そんなことないよ」

「えー、でも、野球部甲子園出たりしてるんでしょう?それに、去年の駅伝で、陸上部がーーー」

「ーーー」

「優ちゃん?!」

「ごめん、ちょっと私お弁当違うとこで食べる」

「え、まって、優ちゃん?」

「ついてこないで」

自分が今、彼女を傷つけているということは、わかっていた。

彼女はなにもわるくないことも、わかっていた。

でも、これ以上この話を続けることが耐えられない自分がいた。

だから、ごめんね。早希。

「………ふぅ」

屋上のとびらを開け、外の冷たい空気を吸い、深呼吸する。

少し、気持ちが落ち着いた。

落下防止のフェンスに寄りかかり、そのままずるずると地面に座り込む。

そして、目を閉じた。

今から授業を受ける気にはなれなかった。

転校初日から授業をサボることになってしまうけど、しょうがない。

先生には、後で謝っておこう。