女子たちは一瞬、最音さんのセリフに顔面を硬直させた。
怒りに震え、興奮し、今にも最音さんを食いちぎりそうな勢いで詰め寄っていく。
「はあ? ほうら、化けの皮が剥がれたね。反論できるくらい元気みたいだから、体育だって出れんじゃん。わたしはズル休みしましたって、紙に書いて貼ってあげよっか? 最音さん」
最音さんから暇人認定されたひとり、がっちり足の女子がそう言いながら最音さんに近づくと、最音さんは、氷の女王の名にふさわしく堂々と言った。
「そんなに体育の授業休みたいなら、そっちも休めば? あ、でも暇すぎると太っちゃうし、体育でちょっとくらい運動したほうが身のためだと思うけど」
最音さん!
ぼくは思わず叫んでしまいそうになる。いくらなんでも言いすぎだ。
こういうときは反論せずに、逃げるが勝ちというのがぼくのポリシーである。たったひとりで複数の相手を怒らせて、得になることなどなにもないのだ。
彼女を囲んでいた女子たちの表情が、さきほどまでよりもいっそう悪意に満ちた醜いものに変化する瞬間をぼくは見逃さなかった。
その瞬間、ぼくは木の陰から走りだしていた。彼女を追いかけてきたときと同じ、考えるより先に体が動いてしまったパターンだ。