汗ばむ陽気の暑い日である。日当たりのよくない体育館裏には湿り気もあいまって余計に陰湿な雰囲気が漂っていた。

「最音さん、体育見学なんだあ」

 ひときわ色が白く線が細い最音さんを囲んでいた中で、一番足が太くがっしりとした女子が、いかにもな感じで言った。

「特別待遇のお嬢様? モデルだっけ? いいよねー、夏になったら体育見学できるなんて」

 痩せてはいるが不健康な細さをスタイル美人だと勘違いして妙にスカートの丈を短くして着ている女子が、最音さんに詰め寄っていく。

 と、ふいに、長くさらさらとした髪をかきあげながら、最音さんはこう言った。

「……は? ばっかみたい。そんなこと言うためにわざわざこんなところまで呼び出したの? 他に楽しいことがなくってよっぽど暇なんだ」

 美人がきつい言葉を吐くと、どうしてこんなにも残酷で恐ろしいのだろう。ぼくはぞくぞくと立ち上がる全身の鳥肌をどうすることもできなかったが、彼女を取り囲んでいた女子たちの反応はもっと恐ろしいものだった。