ぼくは首を横に振る。

「この暑い中、海なんて行ったら倒れるくらいじゃ済まないよ。浜辺で焼け焦げる。大丈夫だとしてもいつ倒れるかって心配で、まったく楽しめない」

 ぼくが言うと、彼女はまだ口を尖らせたまますねたようにそっぽを向いて言った。

「なによ、じゃあかわりにひとりで行ってきて。ひとりだからね。他の女の子と一緒に行くとかなら行かないで」

 意味不明な命令に、ついぼくも反論したくなり、

「ぼくは海が好きじゃないんだ。ひとりでも行かないし、もちろん他の子と行くこともない。絶対にないね」

「じゃあ、わたしを連れてってよ」

「じゃあ、って? 全然話が嚙み合ってないような気がするけど」

 ぼくが困り果てていると、笑いながらぼくらの会話を聞いていた先生が、ぼくに言った。

「莉愛に付き添ってくれてありがとう。ここでは好きなように過ごしてくれていい。暑くない場所でなら彼女は普通の人と同じなんだよ。少しくらい動き回っても構わない。甘いおやつだって食べられる」

 先生の視線は、ぼくのぶら下げている大きな保冷バッグに注がれている。この中身はどうやらお見通しらしい。