そのあとの彼女は、というと、見舞いに来たぼくに対して、無茶な要求のオンパレードだった。

 果物を剥いてくれと言うわ(ぼくはナイフの名手でもあるのでもちろん得意だ。りんごもオレンジも綺麗に剥いてカットしてやった)。

 コーラとコンビニの新作スイーツを棚の端から端まで全種類買ってこいと命令するわ(買ってきた)、挙句の果てには本の読み聞かせまで要求してくる始末(もちろん読んだ。オリエント急行殺人事件だ。なぜこれをぼくに読ませたのかは謎)。

 これだけやれば女王の騎士の役割は果たしたのではないかと思う。そして彼女は、ぼくにまた来るように命令した。

「ねえ、次はいつ来るの? 明日? あ、あさってでもいいよ」

 おかしなことに、気分はそれほど悪くなかった。

 それどころかぼくは結局、夏休みのほとんどを、彼女の病室で過ごすことになった。彼女の希望に応えることは、ぼくの両親を喜ばせることでもあった。
 引っ込み思案な息子が、可愛い女の子から必要とされているのが嬉しかったらしい。

 病室での夏休み。それはぼくにとって彼女と、もっとも濃密に過ごした大切な思い出のひとつだ。