「ど、どういうとこが好きなの?」

 ゴッホのヒマワリを眺めながら彼女に聞いてみる。そういえば、ゆっくり座ってふたりきりで話をしたことなんて、一度もなかった。ぼくは彼女のことはほとんどなにも知らないに等しい。

「死ぬまで売れなかったとこ。あと、たぶんモテなかったと思うからそこも好き」

「なにその理由」

「だって、絵がうまくてそれがめちゃくちゃ売れてイケメンで女の子にもモテて、とかって、すごい嫌味じゃない? 貧乏で、売れてもなくて、でも描かずにいられないっていうほうが素敵って思う」

「まあそれは、そうかもしれないけど。そんな理由で好きって」

 同情? と口をついて出そうになる。美人で秀才で自由奔放で、好きなものは堂々と好きだと言えて、たぶん好きな男にだって、躊躇せずにすぐに好きだと言える彼女に、ゴッホの気持ちなんてわかるのかよ、と言いそうになってやめた。

 金持ちでもなくモテないぼくにだって、ゴッホの気持ちはわからないのだ。