「ごめん」

「だから謝るなって言ってるじゃん!」

 謝るなと言われても、ぼくは他に言葉が思いつかなかった。
 いや、思いつかなかったというのは嘘だ。
 ぼくは嬉しかった。怒っていても、彼女がぼくに、会いたかったと言ったことが嬉しかった。でも、それを嬉しいと言うと二度と言ってはもらえなさそうで、言うのをやめた。
 なにか他に話をしなければと考えたぼくが苦し紛れに発した言葉はこれだった。

「ああ、そうだ、そのヒマワリ、品種名がゴッホなんだ」

 ぼくが作って持ってきたアレンジ。花籠の中でひときわ存在感を放つレモンオレンジ。

「ゴッホが描いたヒマワリに似た見た目をしているからゴッホ。人気の品種だよ」

「ゴッホ? ゴッホってあのゴッホ? 耳を切っちゃった?」

 彼女は目を丸くして、窓際に置いたアレンジを眺める。ゴッホのヒマワリ。

「そう、あのゴッホ」

「そうなんだ! わたし、好きなの」

 唐突な『好きなの』にちょっとどきっとしてしまうぼく。好きなのって、そりゃゴッホのことに決まっているわけだけど。