「アスタくん、冷たい」

 口を尖(とが)らせてすねたような顔をする剛。

 ぼくから見れば気持ち悪いだけだけど、女の子から見れば違うらしい。
剛がいると、よくも悪くも女子の視線が痛い。無理やり剛をクラスから追い出して、ようやくぼくは一息つく。いつものことだ。
 
 その日は、久しぶりに汗ばむ陽気のとても日差しの強い日で、最音さんはその年、初めて体育の授業を見学することとなった。

 体育の授業が始まる少し前、彼女の姿が教室から消えた。
 姿が消えたというよりも、ぼくにとっては彼女の香りが教室から去るのを感じた、といったほうが、感覚としてはより正しい。

 そしてぼくはなぜか自然に、彼女の姿を追っていた。姿を追ったというよりは、香りを追った。そんなふうに言うとまるで警察犬みたいだが、そのときは考えるより先になぜか体が動いていたのだから仕方ない。

 ぼくが追いかけていった香りは、体育館裏に漂っていた。そしてそこには、やっぱりというか、当たり前なのだが彼女がいた。

 体育館裏というと誰かが誰かに呼び出されてなにかしらやばいことになる定番の場所で、そのときもやはり、彼女はよくある定番の感じで、クラスの他の女子数人に囲まれていた。