「そんな辛気臭い顔してた?」
「辛気臭いどころじゃないわよ。毎日毎日、朝から晩までこの世の終わりみたいな顔しちゃって」
この世の終わりみたいな顔。
母はぼくに相当いらいらが溜まっているようだ。
父はもっとそうだろうが今日の場合はいつもと逆で、母が態度に出しているので、父は少し感情を抑えているパターンだ。長年同じ店で一緒に働いてきた夫婦のバランスの取り方。阿吽の呼吸。
「ほら、母さんが怒ってるだろ。今日はもう手伝いはいいからさっさと行け」
父さんがぼくを追い出そうとして言った。シルバーが混ざり始めたオールバック。ぼくが小さい頃から変わらない髪形だ。
重い鉢や水の入ったバケツを一日に何十個も運ぶことを繰り返すから、父の両腕と肩から背中にかけてのシルエットはまるで格闘家だ。オールバックに格闘家並みの背中。年中日焼けした肌もあいまって、花屋の店主にしては少し強そうな感じが前面に出すぎている。
ぼくが以前そのことを指摘したら、花屋の客っていうのは優しいいい人ばかりじゃないんだと返された。