【残念ながら、ぼくはそういうキザっぽいことをするタイプじゃない】
ぼくがそう返すと、今度は、
【いいね。普段そういうことしないタイプの人が、そういうことしてくれたときのほうが嬉しいし、ぐっとくるもん。ずるいなあ】
とまるでぼくをからかっているような彼女の返事。
【ぼくはしないと思うけど】
念押しをするためにそう返事をすると、既読がついてからしばらくの間メッセージが途絶える。
人を翻弄するのが彼女の特技だ。自覚しているのかどうかは知らないが。
しばらくたってから届いた彼女のメッセージはこうだ。
【わたし、ちょっとの間入院することになったの。暑い時期の間だけ。
涼しくなったらまた菊川くんと一緒に、川沿いをお散歩したい。
自転車で少し遠出もしたいし、買い物もしたいし、旅行にも行きたい。
もし元気で退院できたらそのときは、全部付き合ってくれる?
氷の女王は騎士の護衛なしでは外出できない決まりなの】
なぜ、ぼくに頼むのか理由は不明だが、このときぼくは素直に、彼女が無事に元気で退院してきてくれたなら、なんでも付き合ってやりたいという気持ちになった。
ぼくは上手な嘘や気の利いた嘘はつけない。だからこう返事をした。
【わかった。なんでも付き合うから、とにかく元気に退院してきて】