剛いわく、最音さんは『氷の女王』なのだそうだ。
「なんか孤独な女スパイとか、最強の女殺し屋とか、雪女とか、そういう感じ? 俺、意外とああいうの嫌いじゃないんだよな」
剛は映画の見すぎなのか、いつも最音さんをスパイや殺し屋に例えたがり、しかもそれを、本人に聞こえそうな距離でぼくに言うものだから、罪のないぼくまで冷や冷やさせられる。
お調子者だが女にはモテる剛が堂々とそんなふうに言うものだから余計に、他の女子は最音さんを目の敵にするだろう。
彼女が嫌われる悪循環の一端を担っているとは思いもしない剛は、無神経な発言を繰り返す。
「氷の女王の笑ったとこ、誰も見たことないんだってさ。そんなの聞くと余計にさ、
意地でも見てみたくなっちゃうんだよな」
「剛」
「なんだよ、明日太」
「早く自分のクラスに帰れよ」
「なんでだよ。せっかく目の保養しに来てんのに」
「いいから早く帰れって」