その夜は、眠れなかった。

 彼女のカミングアウトのせいで、写真を送ることもすっかり忘れ、連絡先を教えてもらったことも忘れ、ただ、彼女に言われたセリフが頭の中で繰り返されるばかり。

 思い出したのは夏目漱石だけだった。
 ベッドの中で検索したのは夏目漱石と月の関係について。
 諸説あるらしいが、英語のI love youを夏目漱石は、月が綺麗ですねと訳したんだそうだ。

 ぼくは、いつも苦戦している英語の課題を思い出す。自分なりの訳し方。自分なりの解釈っていうのはこういうことなんだろうか。
 だとしたら、ぼくはこんなにもロマンチストには絶対になれないし、自分の言葉で愛を歌った歌詞を訳すなんて、恋すらしたことのないぼくにはあまりにもハードルが高すぎる。
 どう思う? って言われても、ぼくは本当にどうしたらいいのかわからない。

 ぼくにできることは、いったいなんなんだろう。