ぼくらはしばらく黙って、お互いを見ていた。
 月明かりの下の涼しい夜。

 ぼくはこの夜のことをきっと、一生忘れることができない。

「さっき撮った写真、送りたいから、ぼくに、連絡先を教えてくれ」

 言わされたセリフだっていうのに、ぼくはまるで、本当に自分の言葉であるかのようにそれを言った。

あるいはそのときはもう、本気でそう思っていたのかもしれない。

「いいよ」

 彼女はそう答えて、夜の中で微笑んでいた。すごく楽しそうでもあったし、同時に少し寂しそうでもあった。

「もうひとつ、菊川くんにだけ特別に教えてあげる。わたしの秘密」

 彼女は言った。ぼくはこのときの彼女の言葉を思い返すたび、胸が押しつぶされそうになる。

「誰にも言わないって、約束して。いい?」

「うん」

 ぼくは小さく頷いた。怖くもあったし、不安でもあった。彼女が妙に清々しい表情をしているのが気になった。
 誰にも言っちゃいけないようなこと? そんな大事な話をぼくに?
 いったいなぜ?

「菊川くん、わたし、病気なんだ。特別な病気。全身が徐々に花みたいになる病気なんだって。面白いでしょ。世界でもまだ、かかった人はほんの少ししかいないんだよ。暑いと倒れるのも、水ばっかり飲んでるのもそのせい。ねえ、どう思う? 花屋の菊川くん」