「ええー、どうしようかなあ」
彼女はにやにやしながらそう言って、もったいぶったような意味深な笑みをぼくに向けた。無理やり言わせておいて、なんてひどいんだ。
「なんだよ、それ。嫌ならもういい。教えたくないなら無理に教えないでくれ」
ぼくは投げやりな感じでそう言って、心なしか速足になっていた。
もうさっさと彼女を送り届けて、家に帰って晩飯を食おう。
ぼくはきっと踊らされているだけだ。彼女の白い手のひらで転がる小人になったぼく。手のひらはすべすべとして柔らかく、立ち上がることさえできない。想像したら、なんだか笑える。
「もう、冗談だって。すねないでよ」
彼女が、あはは、と声を出して笑いながら言った。
そして、ぼくのスマホをぼくの手からいきなり奪い取って、勝手になにやら触り始める。
「おい、勝手に触るな」
「えーなんでよ、エロ画像でもあるのかな。まあそりゃああるよね男だし。大丈夫、見たってびっくりしないからさー」
「いいから、勝手に触るなって言ってるだろ」
ぼくが奪い返そうと伸ばした手をひょいっと避けながら、彼女は指先でぼくのスマホ画面をスクロールしている。
「嫌、返さない。ねえ、お願い」
彼女は立ち止まり、そう言って、ぼくを見た。
「もう一回、言って。言ってくれたら、返してあげるから」
「言ってって、なにをだよ」
「さっきの。空の写真を送りたいから連絡先を教えてって。もう一回だけ言って、お願い」