「こんな息子でも、頼りになるんならいくらでも使ってやってくれ」
「父さんまで。しかもこんな息子ってなんだよ」
ぼくがぼやくと、最音さんがにっこりと微笑む。
「素敵な息子さんです。とてもいい人ですよ、菊川くんは」
なんだか大人みたいな言い方で、ぼくのことを褒めてくれる最音さん。たとえ両親へのお世辞だとしても、素敵と言ってもらえて嬉しいような、いい人なんて言われてちょっと気に食わないような中途半端で不思議な気持ち。
「はいはい、意外に頼りになるぼくが、ちゃんと送り届けるから。ほら、腹も減ってきたしさっさと行こう」
「お邪魔しました。菊川くん、お借りします」
彼女がぼくの両親に手を振りながら、どこかはしゃいだ声で言う。ぼくはというと、このあとひとりで彼女を家まで送るというこの状況を考えると、とてもじゃないが彼女のようにはしゃいだ声なんて出なかった。
暗くなった道を、ぼくは彼女の荷物をかごに入れた自転車を押して、彼女の隣を歩いている。最音さんとふたりで並んで歩くのは初めてだった。
ひたひたと冷たい、少し湿った夜の空気が心地よく、風が彼女の制服のスカートをふわりと持ちあげる。