剛はなにかと理由をつけてはぼくのクラスにやってきて、最音さんを見物する。

 彼女と同じクラスになったからといって、もちろん目立つ彼女が地味なぼくに話しかけるはずもなく、ぼくがわざわざ彼女に話しかけに行くようなことができるはずもなく、ただぼくは、教室内に漂う彼女の香りを感じながら毎日を過ごしていた。

 誰もが認めざるを得ない美人、それに加えて学年トップクラスの秀才である彼女、最音莉愛は、どうやら相当の、嫌われ者であるらしかった。

 ぼくは彼女を見ているとつい、出る杭は打たれるという言葉を思い出してしまう。
 立てば芍薬(しゃくやく)座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合の花。
 そんな完璧を極めたような女の子の存在は、他の女子からしてみれば脅威であり、できるものなら寄ってたかってどうにかへし折りたい存在に違いなかった。

 けれど彼女は、ただのおとなしい芍薬や牡丹や百合の花ではなかった。陰口が聞こえてくれば誰かに見られることもかまわず容赦なく相手を睨みつけ、威嚇した。

彼女に胸倉を掴(つか)まれた女子がいるという話は、信憑性のないものばかりの彼女に関する噂の中で、もっとも真実めいているように思えた。

 強い女をわざわざ庇う男はいない。
 もしも、彼女がひどい陰口に傷つき、皆の前で泣いたりするような女の子であったなら、学年の男子全員が彼女の味方になったに違いないのに、彼女は絶対に、誰かに弱音を吐くようなことはしなかった。