「飲めるなら自分で飲んでくれ。ていうか、二回目だねって、あのとき、ぼくが助けたの知ってたのか。なにも言ってこないから、知らないのかと思ってた」

 ぼくが言うと、彼女はへへ、と小さく笑う。

「運んでくれてるなあって、思ってた」

「は? なんだよ、意識がなかったんじゃないのかよ」

 ということは、と、ぼくは思う。保健室でのぼくと先生の会話も、彼女には筒抜けだったってわけか。

「意識はうっすらあったよ。でも自分で立ち上がれなかったのは本当だし、目の前真っ暗だったから、感覚と音だけ」

「ああ、そう」

 今更ながら恥ずかしくなってくる。先生から最音莉愛の見守り係に任命されて若干浮かれていたのも丸聞こえ、彼女を気にしてすぐに保健室から出て行かなかったことも、彼女は知っていてこの態度なのだ。

「本人公認の、見守り係に昇格だね。わたしに内緒にする必要なんてなかったのに。あと、わたしが体育休んで悪口言われるから、倒れるってこと言ったほうがいいんじゃないかって、先生に言ってくれてたでしょ。あれ、すごく嬉しかった。本物の、騎士だね、菊川くん」

 畳に寝かされたままとはいえ、だんだん饒舌になってくる彼女は、少し元気を取り戻したようだ。

「背中、痛くない? 大丈夫なら、しばらくここで休んでったらいいから。じゃ。ぼくは仕事に戻るよ」

「優しいよね、菊川くん」

 彼女に優しいとか正直だと言われると、なぜかからかわれているようで素直に喜べない自分がいる。ぼくは彼女の言葉に返事はせず、彼女を寝かせたままで、仕事に戻った。