「ごめんな、布団もベッドもないけど。すぐになにか持ってくるから」

 ぼくは彼女にそう言って立ち上がる。
 慌てて氷嚢と飲み物を運んできた母が、彼女の首筋にそっと手を当てた。

「汗びっしょりだわ。熱中症なら、起こして水分も取らせてあげなきゃ」

 母が言った。ぼくはいそいで二階に上がり、薄いマットレスにタオルケットや枕を自分の部屋から持ってくる。マットレスを畳に敷き、ふたたび彼女を抱きあげてゆっくりその上に寝かせてやる。やっぱり怖いくらい軽い。

 彼女の髪が、白い額と頬に汗でくっついている。ぼくが指先を伸ばしてそれを取ってやろうとすると、彼女の両方の眼が、そっと開いた。

「あれ、菊川くん……」

 彼女が薄目でぼくを見上げている。絞り出すような声で言った。

「……二回目だね、抱っこしてくれたの」

 苦しそうな顔で、ちょっと微笑んでいる。ぼくは氷嚢を彼女の手に持たせてやり、母親が持ってきたペットボトルの水を差し出す。

「はいこれ、自分で飲める?」

「飲めないって、言ったら飲ませてくれる?」

 倒れたくせに、人をからかうのだけは一人前なのが最音さんらしい。