「もちろん、いいに決まってるわ。ほら明日太、彼女をこっちにご案内して」

 ぼくは母の言うとおり、はいはいとつぶやきながら彼女を店の奥にある小さなスペースへと案内する。お茶くらいなら沸かせる小さなケトルと、お菓子でお茶休憩くらいならできる小さなテーブルと丸椅子が三つ。

「ほら、こっち、ここの椅子に」

 座って、とぼくが彼女に言いかけたときだった。
 突然、ぼくの体の方向に、すぐそばにいる彼女が、ずずず、と倒れかかってきたのだ。

「え、ちょっ、うわ」

 とっさに両腕で、彼女の体重を支えて抱きしめるような体勢になる。抱きかかえた彼女の体は、怖いくらいに軽くて、熱くて、そして冷たい。あのときの記憶がよみがえる。

「母さん! 氷枕とか、氷嚢とか、なんでもいいから冷たいもの! あと、水分補給しやすい飲み物も!」

 ぼくは言った。保健室での先生の対応を思い出しながら、彼女を抱きかかえて支えながら。
とんでもなく、か弱い生きものが今、ぼくの腕の中にいて、ぼくの助けを必要としている。女王は無敵なんかじゃない。騎士はほんとうに彼女にとって必要な存在なのかもしれない。

「明日太! 奥に連れていってやりなさい!」

 様子を見ていた父が言った。

 テーブルと椅子のある休憩スペースのそのまた奥に、畳が敷かれた小さな部屋がある。ぼくは彼女を抱きあげ、段差を上がってその部屋に、彼女をそっと降ろして寝かせてやる。