彼女は学校では、相変わらずあまり感情を出さない。
そうかと思えば悪口を言うやつを思いきり睨みつけてみたり、三倍返しの勢いで言い返してみたりと、穏やかではない。

 強い彼女には騎士なんて必要ないんじゃないかと思うくらい、氷の女王はほとんど無敵なように見える。
 教室ではぼくに対しても、笑顔も少ない冷たい感じのする彼女だが、店に来ているときは本当に、なんだか無邪気で自由で楽しそうだ。

「ちょっと、今、邪魔するなら早く帰れよって思ったでしょ」

 彼女を見つめてしまっていたぼくに、無実の罪を着せながら詰め寄ってくる彼女は、本気でそう思っているのかそれとも冗談のつもりなのか。

「思ってない、思ってない。言いがかりはやめてくれ」

「明日太は嬉しいに決まってるわ。心配しないでゆっくりしてってちょうだい」

 店の奥のスペースから、母が顔を出して口を挟む。

「ねえ、よかったらこっちに来て。休憩しましょ。おいしいお茶とお菓子があるの。いただき物だけど」

 彼女の顔が、ぱあっと輝く。

「いいんですか、わたしすごく喉が渇いてるんです!」

 彼女がいつも片手に持っている、ペットボトルのミネラルウォーターは空だった。ぼくの観察したところによるといつも四、五本は持ち歩いているはずの予備のぶんも飲みきってしまったのだろう。

 有名な海外のファッションモデルなんかは一日に五リットルもの水を飲むらしいから、最音さんもスタイルを気にしているのかもしれない。美人は一日にしてならずとはよく言ったものだ、とぼくは思った。