剛はやたらと張り切っていた。休み時間には前にも増して堂々と、女王の護衛と称してぼくのクラスに来るようになった。

「女王、おはようございます! 本日の護衛に参りました!」

 騎士になって初日、剛が最音さんに挨拶すると、クラス全員がぎょっとしたような顔でぼくらを見た。

「え? ほんとに来たの?」

 と女王は心の底から面倒くさそうにそう言い放ち、そのあとは、仮にも騎士である剛に対してももちろんぼくに対しても見向きもしない。

 そんな光景も毎日のこととなると、クラスメイトも「またいつものやつか」という目でぼくらをちらりと横目に見るだけになった。

 彼女は相変わらず、毎日ぼくに対しても剛に対してもクールを貫いていたが、剛があからさまに『護衛』という言葉を連呼するおかげで、女子生徒たちの最音莉愛に対する嫌がらせは、目に見えて少なくなっているようだった。

 もちろん女子たちは、氷の女王をリスペクトしているわけではなく、よくも悪くも目立つ男である剛と、その剛が堂々と『護衛』しに来ている『氷の女王』に嫌われたくないと意識しているのが見え見えだった。
 当然ながら、剛はそこまで考えてそういった行動を取っているわけではないのだが、悪ふざけとしか思えなかった女王の護衛も、少しは意味があるのかもしれないと、ぼくは思うようになっていた。

 騎士になる以前にぼくには彼女の見守り係という正式な使命もあり、ある意味堂々と彼女を見守れるようになったこの環境は、ぼくにとっても悪くはなかった。