剛は恐ろしいものでも見るように、文字どおり凍りついたように固まって、至近距離にある最音さんの顔を見つめている。
「こんなアップに耐えられる美人って、なかなかお目にかかれないよな。女王の風格だよ、なあ明日太」
凍りついているくせに、言うことだけはやっぱり剛らしい。剛のセリフに、彼女は笑った。
「うわ、笑うとめちゃくちゃ可愛いじゃないですか、なあ明日太。氷の女王の笑顔が見られるなんて俺ら、ラッキーだよな、な?」
ぼくに同意を求めてくる剛。ぼくが、ああ、うん、と歯切れの悪い返事をすると、最音さんは剛に言った。
「じゃあ、特別に許してあげる。特別だからね」
「女王に失礼をしてしまったお詫びと言ってはなんなんですが、俺を氷の女王の召使いにしてもらえませんかね」
剛がおどけた調子で言い、最音さんは「召使い?」と怪訝そうな顔で聞き返す。ぼくもよくわからなかったが、剛がよくわからないことばかり言うのはいつものことだ。
「はい、召使いです。まあ、パシリみたいなもんっすね」
剛がどこまで本気で言っているのかわからないが、氷の女王本人を目の前にして、舞い上がっているのか、もしくは、報復のビンタが怖くて女王に媚びて許してもらおうとしているのか。