店の外からちらりと中を覗いた剛は、絵に書いたみたいな二度見をしたあと、口をぱくぱくさせながら店に入ってきた。

「なんで、なんで氷の女王がこんなとこにいるんだよ」

 最音さん本人が目の前で聞いているっていうのに、そんなことはおかまいなしに剛はぼくに詰め寄ってくる。

「なんで俺は知らないんだよ。いつの間に仲良くなってたんだ?ビンタされた相手とよく仲良く……」

 言いかけた剛の口をぼくは慌てて塞いだ。それを見ていた最音さんが言った。

「止めなくていいよ。菊川くん。ねえ、氷の女王って、わたしのこと? あなたが命名したの?」

 彼女は剛に顔をぐっと近づけて、ふふんと不敵な笑みを浮かべながら言う。

「ねえ、そうなの? 氷の女王って、わたしのこと?」

「す、すみません! 許してくださいすみません!」

 剛は最音さんに思いきり頭を深々と下げる。すると彼女はそれを見て、ふふっと声を出して笑った。

「氷の女王って、悪くないかも。気に入った。ねえ、菊川くん。どう思う?」