3 氷の女王とゴッホの向日葵


 その日以来、放課後になると彼女は、多いときは一週間に二度、三度と、うちの店に遊びに来るようになった。

 ただ遊びに来るだけの日は、店で常連客のおばちゃんと彼女が楽しそうに話すこともあったし、カウンターの中にまで入ってきてぼくの仕事の邪魔をすることもあった。
 週に一度、彼女はぼくに小さな花束を注文した。

部屋に飾る、マグカップサイズの短くて小さな花束だ。彼女のオーダーはいつも、いい香りのする可愛い花。

「菊川くん、花束作って」

 彼女がそう言いながら店に入ってくることを、ぼくはいつしか心待ちにするようになっていた。彼女の顔を見るとつい思いきりにやけてしまい、ちょっと迷惑そうな顔を作るのも至難の業。もちろん両親にはぼくが喜んでいることはバレバレだ。

 そしてある日、学校帰りに店の前を通りがかった剛が、店にいる最音さんを目撃した。

 びっくりしたなんてもんじゃなかっただろう。
 ぼくとしては、彼女が頻繁に店に来るようになったということと、最音さんが倒れたのを保健室に運んだことも誰にも言えなかったということ、いろんな理由が重なって、剛になんて説明していいのかも、話すタイミングもわからなかったのだ。