こういうとき、いつもなにかぼくの心でもやもやしているものを、隣で言葉にしてくれるのが剛だった。ぼくが求めなくても。保育園、小学校、中学に入ってからもずっとだ。
ぼくは正真正銘のいくじなしだった。
「昨日はサービスしてもらったから、次はちゃんと買いに行くね」
氷のような彼女の表情が、ほんの少しだけ緩んだように見えた。ぼくはたまらなく嬉しくなって、けれどそれを悟られないように、慌てて答える。
「あ、それなら今飾ってる花が、萎れる前に来るといいんじゃないかな。ほら、枯れた花を飾っておくのはあまりよくないから」
ぼくの言葉を聞いた彼女の表情が一瞬で、曇ったように見えた。
今ならぼくにも、彼女がこのとききっと、悲しかったのだろうということがわかる。彼女を傷つけてしまったのだということが。
けれど本当に愚かなことに、このときのぼくにはまったくもってわからなかった。彼女の表情が曇った理由が。
「そうなの?」
と、冷たい表情に戻って、彼女は言った。
「花は枯れるから、散るから美しいんじゃないの?」
彼女はぼくの目を見ていた。その眼差しが途方もなく澄んでいて、ぼくはなんだか幻を見ているような気持ちになる。
それはなんとなく彼女らしくないセリフだったが、妙に説得力があった。その言葉には、ぼくも同感だった。
「そうだよ。どんなに精巧に造られた造花でも、絶対に本物の花には勝てない。花は散ることが美しさだから」
ぼくが言うと、強張っていた彼女の表情が少し和らいだ気がした。