その日、登校すると教室にはもうすでに、彼女の姿があった。
最音莉愛はいつものとおり、ペットボトルの水を片手に自分の机のすぐそばにある窓に寄りかかるようにして立っていた。
外を眺めているのか、それともただぼんやりしているだけなのかわからないけれど、そこには誰も寄せ付けない、圧倒的なオーラが漂っている。
あれが昨日、ぼくのことを仲良しの友達だと言った彼女と同一人物だとはとても思えない。けれどぼくは、勇気を出して彼女に話しかけるべく、教室の中で彼女に歩み寄っていった。
朝の教室はいろいろな匂いに満ちている。
さっきまで焼きそばパンを食っていた男子がいる。香水をつけすぎた女子がいる。前の日に餃子を食ったやつがいる。隣の席のやつの柔軟剤が変わった。朝練してきた野球部の、汗と制汗スプレーの匂いが混ざっている。
担任が授業前に煙草を吸ってきたときや、前日に酒を飲んで二日酔い、授業前にトイレで吐いてきた、なんてことまでぼくにはわかってしまう。
彼女に近づけば近づくほど、ぼくが感じる花の香りは強くなる。
気のせいなのだろうか。彼女を初めて認識したあの日、渡り廊下で彼女の香りに気が付いた日よりもずっと、花の香りがより濃厚になっているような気がする。もちろんこれは、人より嗅覚が鋭いぼくにしか感じられない濃厚さだ。彼女自身は、この香りに気が付いているのだろうか。