母親がまた口を挟む。

「真面目に接客しろ」

 と父もそれに便乗するようにぼくに言う。それを見て最音さんがまた嬉しそうに笑うという、普段は会話すらしないクラスでのぼくと最音さんからは想像もつかない不思議な光景が店の中で繰り広げられており、ぼくはなんだか眩暈がしそうになる。

「菊川くんにおまかせするから、可愛い小さい花束作って。部屋に飾って楽しくなるようなのがいい。あ、いい香りがするのがいいな」

 最音さんはふふ、と笑いながら言った。普段あんなにも無表情な彼女の笑顔には、相当の破壊力があり、ぼくは悔しいながらもまたそれを可愛いと思わずにはいられなかった。

「わかった。じゃあ、マグカップで飾れるくらいの小さいサイズで作るよ」

 ぼくが言うと、最音さんは、

「嬉しい。お願いします」

 と丁寧な口調で返す。これがぼくにいきなり平手打ちをした女の子と同一人物なのだから、女子というのは恐ろしい生きものだ。

 ぼくは彼女のリクエストどおり、香りのいい花や見た目の可愛らしい花を選び、手に取って小さなブーケを組んでいく。彼女はそれを、本当にわくわくしたような顔で眺めていた。

 最音さんから漂ういつもの花の香りは完全に店内の香りと同化している。嗅覚の鋭いぼくでも、店の中にいると彼女の香りはわからなくなった。