彼女と初めてクラスが同じになった、高校二年の春。

 ぼくはもうすでに、剛をはじめとするその他の同級生によって、彼女について多くの情報を得ていた。
 その情報の多くは、なんの役にも立たない、とくに信憑性のないものばかりだったのだが、なぜそんなにも短期間で彼女についての情報を得ることができたのかといえば、彼女が学年の有名人だったからだ。

 有名人という表現はこの場合、ひょっとするとふさわしくないのかもしれない。

 例えばその、彼女に関する信憑性のない情報は、バスケ部を入部して一か月でいきなり辞めたということ、その理由が単に、厳しい先輩にムカついたからであるということや、彼女が夏になると特別に体育を休む権利を与えられているということ、それはどうやら彼女がモデル事務所に所属していて、日焼けが厳禁であることなどが理由らしいということ、それが認められたのは、なんでも彼女の父親が医者かなにか、いわゆるお金持ちで、学校に寄付をしているかららしいということなどだった。

 噂というのは次々に尾びれがつき、背びれがついて、がちがちの鱗で固められ、最終的にはメダカが巨大魚になってしまうものだ。
 この巨大魚の中に、どれかひとつでも本当の情報があったとして、ぼくにはなんの関係もない。