「わあ、ありがとうございます!」
元気よく彼女は言いながら丸椅子に腰かける。とにかく絵になる最音さんは、丸椅子に座ってもやはりお姫様らしく美しかった。
彼女は嬉しそうに店内を見回して、微笑んでいる。完全に調子を狂わされたぼくは、疑問に思っていたことを彼女に聞いた。
「なんでうちが花屋だって知ってたの。てか、なんで来たの」
最音さんが、ぼくを見る。
「なんでだと思う?」
「まったく見当もつかない」
「即答しないで、ちょっとは真面目に考えてよ。真面目に考えないと答えてあげない」
最音さんは少しすねたような顔になる。こんなにも表情がころころ変わる彼女をぼくは見たことがなかった。
「だって、最音さんとはほぼ話したことないだろ。ぼくの家がここだって知ってる同級生は学年にふたりしかいない。最音さんがそいつらと知り合いだとは思えない。ぼくは学校では花の話をしたことがないし、花屋だって話もほぼしない。最音さんがわざわざここまで来るような理由も思いつかない」