「エプロン似合うね、菊川くん」
最音莉愛がうちの花屋で笑っている。それはとても不思議な光景だった。
「いらっしゃい。ほら明日太、なにぼうっとしてんの」
母が横から、弾んだ声で口を挟む。
「ごめんなさいね。うちの息子、ほんと愛想がなくって」
母が言うと、彼女はなにが面白いのか、お腹を抱えて笑いだす。アハハ、とかケラケラといった、からっと晴れた空みたいな笑い声が店に響く。どうして今日の最音さんはこんなにも楽しそうなんだろう。
「そんなことないですよ。菊川くんはお人好しだしおとなしい人だけど、学校ではちゃんと、いつも上手に作り笑いをしてます」
彼女は母に向かって、微笑んだまま上品な口調で言った。
作り笑い? 失礼なとぼくは思ったが、それも本当のところわりと核心をついており、ぼくはついつい黙ってしまう。
母がそんなぼくらを見て笑う。いつの間にか、母はカウンターの外に出ていて、例の常連客のおばちゃん専用の丸椅子を彼女に勧めようとしているのだ。
「作り笑いね、やっぱり。明日太はそうだろうと思った。ねえ、よければここに座って」