「へえー、菊川くんってほんとうに花屋さんだったんだ」
突然、背後からどこかで聞き覚えのある声がした。
驚いて振り返り、ぼくは目を丸くする。
そこにいたのは、ぼくに平手打ちをした保健室の眠り姫。最音莉愛その人だった。
いつもなら、彼女が近づいてくればその香りだけで、すぐに存在に気付くことができるのに、花が大量にある店内では彼女の香りは店の香りと同化して、まったく気配を感じることができなかったのだ。
「え、え、なんで」
反射的に後ずさりをするぼくに、満面の笑みで得意げに、彼女は言った。
「会いに来たの。花屋さんの菊川明日太くん」
彼女の笑った顔をぼくはこのとき初めて目にしたのだけれど、このときの笑顔をぼくは一生忘れることができないだろう。
それくらい、彼女の笑顔は、もう本当にびっくりするくらい可愛かったのだ。悔しいことに。
「会いに来たって……」
突拍子もない彼女のセリフにフリーズするしかないぼくの傍らで、両親が嬉しそうに顔を見合わせている。ぼくをたずねてきたクラスメイト、めったにいない美少女の正体は彼女だったのだ。