「名前は聞いてないけど。また来ますって、ずいぶん可愛らしい子だったわよ。本当に明日太の友達なのかって疑っちゃったわよ」
父のかわりに母がそう言った。ぼくはますます頭の中が疑問符でいっぱいになる。同じ高校の同じ学年に、ぼくの実家が花屋だと知っている小学校時代からの友人は剛以外にもうひとりいるが、今はクラスも違うためクラスメイトではない。それも女の子ではなく男だ。
「え、小学校のじゃなく? 高校の?」
「小学校の同級生なら、見ればわかるわよ。あんな綺麗な女の子、このあたりの子で明日太の同級生にいたら覚えてないはずないわね」
母がなぜか得意げな顔で言う。ますます意味がわからなかった。
店の場所まで知っていて、わざわざここまで来るクラスメイトの女子。しかも綺麗な女の子? そんなやつはぼくの知る限り、ひとりもいない。
「心当たりがまったくないから、人違いじゃないかな。違う花屋と間違えたんじゃない」
ぼくが言うと、父はあからさまにがっかりという顔をした。父は機嫌が顔と態度に出る男なのだ。
「早く学校の宿題終わらせて、手伝いに降りてこい」
父も母もぼくのことをまだ、小学生か中学生だと思っているのかもしれない。
宿題だけやっていればよかった小学校時代とはもう違う。一応来年は受験生なのだ。