「あら、おかえり」
一番にそう返してくれたのはエプロン姿で忙しそうに働く母でも、その傍らでどっしりと構えた店主である父でもなく、常連客のおばちゃんだった。
週に一度仏花を買いに来て、膝が悪いことを理由にレジの近くに置いてある丸椅子に腰かけ、買い物の休憩を言い訳にいつも堂々と店に入り浸っている。
ぼくが小学校の低学年のときにはもうすでに、そのおばちゃん専用の丸椅子はいつもその場所にあった。
「あ、こんにちは。いらっしゃい」
ぼくがおばちゃんに向かってそう返すと、母が微笑んで言った。
「おかえり、明日太。宿題終わったらでいいから、ちょっと手伝って」
「わかった」
そう答えたぼくに向かって、今度はカウンターで黙々と花をさばいていた父が言った。
「明日太、さっき、お前の学校のクラスメイトって女の子が店に来たぞ」
珍しく嬉しそうな父の声。ぼくは思わず、え、と声を出していた。
「クラスメイトって、誰」