ひとり息子であるぼくは本来、この店の跡継ぎということになるわけだが、それについてはどうも今ひとつぴんとこないというのが正直なところ。
小さい頃から両親の背中を見て花に囲まれて育ったとはいえ、花屋の息子に生まれたからといって必ずしも花屋にならなければいけないはずはない。
花は好きだし、両親との仲も良いほうだと思う。
けれど、十七年間生きてきて、心の底から花屋になりたいと思ったことは、一度もない。
うちの花屋、それに剛の自宅である山根(やまね)寝具店。
その両方がある商店街の歴史は古く、かつては人々の活気で溢れていたという商店街自体はもうほとんど、その機能を失いかけている。
先祖代々この土地に根を張り、商いを続けてきた古い店は、両隣がシャッターを閉じていようともここで意地でも商売をし続ける覚悟だと、昔、父と剛の父親が真剣に話しているのを聞いたことがある。
ぼくが毎日眠っている、ふかふかの布団はもちろん、ぼくがまだ小さい頃に剛の家の寝具店で買ったものだ。
「ただいま」
古い造りの住居兼店舗である我が家の入り口はひとつだ。
切り花が何十種類も入ったバケツや、小さな花の苗が入ったトレイがずらりと並ぶ、店の前から堂々と入る以外の選択肢はない。