「ほらね、やっぱり休んでる」
あの日、彼女を囲んでいた女子グループが、聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言うとき、ぼくはひそかに拳を握りしめたり歯ぎしりをしたりした。
彼女だって、休みたくて体育を休んでるわけじゃない。
彼女の体質のことも知らないで、あることないこと言うなと怒鳴ってやりたい気持ちをぐっと堪え、ぼくは耳を塞ぎ、黙って彼女を見守ることに徹した。
最音さんを見守るようになって気が付いたことだが、彼女は一日に、最低でも五本、五百ミリリットルのペットボトルのミネラルウォーターを空にした。
同じ銘柄のペットボトルだから、ぼく以外の生徒はみんな、それを一日に何本も空にしているとは思っていないらしかった。
確かに最音さんがその外国製の銘柄のミネラルウォーターを飲む姿はとても絵になっており、その頻度にはぼくも、以前は特別違和感を抱いていなかった。
彼女のことをよく観察している女子たちは、そんなことまでも陰口のネタにしたりするのだった。
ぼくは、あの日から彼女に無視され続けていた。
ぼくが見守り係であるという事実はもちろん最音さん本人には秘密であり、ぼくは真面目に先生との約束を守り、彼女がいつ倒れてもすぐに対応できるよう、彼女をただひたすら離れた場所から見守っていた。
ぼくがひそかに期待していた、最音さんから直接、保健室に運んだお礼を言われるなどという妄想は、現実になりそうになかった。