ぼくが言うと、先生は少し考えるような顔つきをしてから、困ったように言った。

「最音さんが、隠すことを望んでいるからね。そこは先生もどうしようもないの。でも、あなたみたいな見守り係が、同じクラスにいてくれると助かる。また、なにかあったらすぐに教えてくれる?」

 わかりましたと言ってぼくは頷いた。

 このときのぼくはまだ、先生の言葉を、彼女が倒れやすい体質であるとか、暑さに弱い体質である、という程度にしか認識していなかった。

 それどころか、愚かなぼくは彼女の、他の生徒が知らない小さな秘密を知ることができたことに密かな喜びさえも感じていた。

先生から彼女の見守り係に任命されたことについても、ぼくは、口は悪いけれどなぜか気になる存在である最音さんと、近づいて話をするきっかけができたというふうに考えていたのだった。

 ぼくは後々、このときの軽率な自分を責めることになるのだが、とにかく、まだこのときのぼくは、彼女のことを気になってはいたものの、一生忘れることのできない世界で一番大切な女性になる人だなんて、これっぽっちも思っていなかった。