とにかく、ぼくは彼女を抱いて、保健室に向かった。
まだ殴られた頬は痛かったし、これが彼女にとって余計なお世話だということも重々承知だった。

 保健室には先生以外に他の生徒の姿はなかった。女子を抱きかかえて現れたぼくを一目見て、先生は大慌てで駆け寄ってきた。

「最音さん!」

 先生は、ぼくが告げるより先に、最音さんの名前を呼んでいた。一瞬、先生の顔に驚きの表情が浮かんだが、最音さんに少し触れ、なにかを確認すると安心したように頷いて、ぼくに彼女をベッドに寝かせるように促した。

ぼくがしどろもどろになりながら慌てて事の経緯を説明すると、先生はうんうんと頷いた。

「そう、急に倒れたのね。今日は久しぶりに暑いものね。連れてきてくれて助かったわ、ありがとう」

 先生は慣れた調子でぼくにそう言って、氷嚢(ひょうのう)や冷却シート、ペットボトルの経口補水液なんかをつぎつぎに持ってきて、傍らに腰かけ、最音さんの体を冷やし始める。

「あなたは、もう戻っていいわ。ありがとう。ええと、名前は?」

「二年四組の菊川(きくかわ)明日太です」

「菊川くん。最音さんと同じクラスね。このことは、他の生徒には言わないように。あと、彼女にまた、なにかあったら、よろしくね」

 先生は氷嚢の中身をほぐしながらぼくに言った。