ぼくはその、彼女の行動と表情のギャップに、妙な心臓の鼓動がなかなか収まらなかった。
我に返ったように、最音さんとぼくの周りから、最音さんを囲んでいた女子グループが散っていく。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴ったのだ。
そしてそのチャイムの音を合図にしたように、ぼくの目の前で、最音さんがどさりと、地面に倒れた。
「え、最音さん?」
ぼくは、嘘だろ? とつぶやきながら彼女の顔を覗(のぞ)き込んだ。彼女の顔はいつの
ぼくは彼女の手を掴み、その温度を確かめる。手は冷たく、またしても、ぼくは考えるよりも先に彼女の体を抱きあげていた。
彼女の体はまるで小さな子どもみたいに軽かった。
特別トレーニングもしていないぼくが、抱えたまま走ることができたくらいだ。
ぼくはその日、人生で初めて、女の子を抱きかかえて走る、という経験をした。彼女が軽くなければ走るなんてきっと不可能だっただろう。