急に、がさっと音を立て、木陰から飛び出したぼくに、その場にいた女子全員の視線が突き刺さる。
怒っている女子の視線ほど怖いものはなく、今現在、その場にいる女子は全員怒りに震えている状態で、つまりぼくは、ライオンの群れに飛び込んでしまったシマウマ同然なのだった。

 ぼくは言った。もうあとがないシマウマの、最後の言葉のつもりで。

「あ、あの、さ、なんというか、体育を休むのだって人それぞれ理由もあるわけだし、その、そんな風に大勢でひとりを囲むのもフェアではないような気がしない? あ、そう、怖いときはほら、思ってもないことを言ってしまうのが人間ってもんだし」

 ぼくがそう、言い終わるのとほとんど同時だった。
 ぱちーん、というキレのある音とともに、ぼくの左頬に強烈な痛みが走った。
 最音さんに平手打ちをされたのだ、ということに、数秒たってから気が付いた。そしてぼくは、痛みと驚きで、崩れ落ちるようにその場にうずくまってしまった。

「なんにも知らないくせに、勝手に人のこと庇わないで。そんなことされたって、ありがとうなんか言わないから」

 崩れ落ちたぼくを、最音さんが見下ろしている。声が少し震えていた。
 一見、強気に見える彼女の青白い顔に、なぜかどこか悲しそうな、傷ついたような表情が浮かんでいた。

怯えながら噛みつく子犬にも似たその視線は、彼女の代名詞である氷の女王とはかけ離れている。

 彼女を見上げているぼくにしか見えないその表情に、一瞬釘付けになる。