婚礼衣装の色打掛は、想像以上に重かった。

 しかも、足場がデコボコしている洞窟の中。先ほど着付け師から歩き方をレクチャーされたけれど、話半分に聞いていた凛はうまく歩けない。

 ――確か、かかとは開いてつま先は閉じて、すり足気味に歩くんだったかな。

 そんなことを言われたのを思い出して歩いたら、幾分かスムーズに進めるようになった。

 他にも美しく見えるようにするにはとか、花嫁らしい楚々(そそ)とした姿勢とは、なんて話もされたような気がする。

 だけど、凛にとってはどうでもよかった。今日で使命を終える自分がどう見られたって、今さら大した問題ではない。

 洞窟はちゃちなライトが数メートル置きに天井から()るされているだけで、薄暗い。滅多に人の往来のない場所だから仕方がないだろう。

 ここは、人間が住む国と、あやかしが住まう国をつなぐ通路のひとつだった。

 二十歳を迎えたばかりの凛は今日、鬼の若殿の花嫁となる。

 しかし花嫁とは名ばかりで、実際は生贄(いけにえ)も同然だった。凛のような立場の者を、『生贄花嫁』と呼ぶのも人間界では通例となっている。

 凛は百年に一度の頻度で人間の女性から生まれる、非常に(まれ)な体質だった。鬼に好まれる血である、〝夜血(やけつ)〟の持ち主なのだ。

 夜血の乙女は太古の昔から、鬼の若殿の元へ嫁ぐのが習わしだった。それは、人間とあやかしが友好的な関係を築きつつある現代の日本でも、変わらずに残されている風習だ。