母が、いつもの薬を用意してくれたのは夜の八時半くらいで大体いつもと同じ時間だった。私は、ただでさえ気分が高揚していた上に薬が効いてきた夜九時過ぎには、はち切れんばかりのエネルギーに満ち溢れて、勉強により一層精が出た。
 あの初体験以来、私とアカネは、度々その禁断の行為を繰り返していた。最初は、痛そうだったアカネの行為中の様子は、回数を重ねるごとに開放的であからさまな悦楽の様子に見てとれた。


 施設の相部屋の角のベッドで、私は、初めてアカネと遊園地にデートに行った時の写真を複雑な心境で眺めていた。十四歳の頃の淡い思い出は、それなりに私をセンチメンタルな感情にさせてくれた。今、四十三歳になった私と同級生いや、もしかしたら恋人だったかも知れないアカネは、もうこの世には、いない。夜九時の就寝の時間になった。私は、少しの間アカネの事を思い返しながら静かに眠りの世界へと誘われていった。

 中学三年生になった私は、母から貰っていた薬を使って学年トップクラスの成績をキープしていた。少し変化があったとすれば、毎日の勉強前だけでなく、大事なテストの三十分前に「例の薬」を服用するように母の指示が変わった事だろうか。そのおかげか、テストが始まる頃には、私は、やる気満々で集中してテストに臨むことが出来ていた。


 MRIの検査が終わって、私は、小さな不安を抱えながら診察室に入った。
「若干、脳の萎縮が見られますね」
 医師は、そう言って私の顔を見つめながら、かなり深刻な表情を浮かべていた。
「萎縮すると、どうなってしまうのですか?」
 私は、的中してしまった不安を少しでも拭うために医師にすがるような気持ちで質問した。
「まあ、長年に渡る薬物の使用によるものですが、ここに居る患者の中では、まだましな方です。しかし、一度こうなってしまった脳は、もう元には戻りません。人格に影響を及ぼす程ではないにしろ、もうしばらくここで過ごして改善をはかりましょう」
 医師の見解は、軽いものでは無かった。約三十年間に及んだ私の薬物使用の影響は、確実に私の脳を痛めつける結果になってしまった。