「いただきま~す……」
 二人とも元気の無い声でそう言った後、母特製のお粥を言われた通りにゆっくりとフーフーと熱を冷ましながらレンゲで栄養に飢えきった身体に注ぎ込んでいった。
「美味しいね!」
 ユキエは、急に元気な声で私にそう言った後、心配そうに見つめていた母に向かって、
「美味しいです!鶏がらスープの素を使ってますね!」
 ユキエは、意外と料理に詳しかった。
「そう、よく分かったわね。え~と……」
「ユキエと言います!」
「ユキエちゃん、このバカ息子の為に酷い目にあわされちゃって……」
 私は、かなり美味い母のお粥をしっかりと噛み締めて食べていた。
「もう、リタリンは、やめます!ねっ!」
 ユキエが、そう言った。
「ん?ああ、そうだね。健康に良くないよね!」
 私は、取り敢えず、その場はユキエの提案に同意した。
「あなたには、自分でクスリの管理は出来ないみたいね。酷い有様だわ!」
 母は、ミルサーを見つけて怪訝そうな顔でそれを見つめていた。
「コカインみたいに、鼻から吸ったのね。まったくもう!」
 母は、買ってきたスーパーの袋の中からバナナを二本取り出して食後のデザート用に小さくカットして、買ってきたヨーグルトの中にカットしたバナナを入れた。
「これを食べたら、二人とも少し昼寝しなさい。睡眠も充分取れてないでしょう?」
 お粥を完食した私とユキエは、デザートのバナナ入りヨーグルトをしっかりと食べて、母の言う通りに二人で午睡する事にした。

 夕方まで、お互い気持ちよく眠れた私とユキエは、キッチンで既に夕飯の支度をしている母の姿を見て、どこかでホッとしたような妙な感覚に包まれた。もしかして、今日起こった出来事が、全て夢の中の話で、ユキエと私の状況が以前と何一つ変わっていない悲惨なものかもしれないと不安だったからだ。

 夜の六時半に私とユキエと母の三人で夕飯を食べた。メニューは、ロールキャベツに海鮮サラダ、オムライスの洋食風手料理だった。母の作った料理は、どれも美味しくて食材の一つ一つが、貴重な栄養源として私とユキエの体内に吸収されていく蘇生の様な感覚が二人に感じられて、母との会話もクスリの事など全く忘れて再び勉学に励もうという強い意欲が、身体の奥深くから沸々と沸き上がってきて、二人とも母に感謝するばかりだった。