「何か、身に纏いなさい!はしたない!」
 私は、初めて母から暴力を受けたが、言われた通りに素直にTシャツと短パンを履いてユキエにも何かを着せようとした。
「この娘は?彼女なの?私が介抱するから、ちょっと待ってて!」
 母は、ユキエを大切に扱って私の大きめのTシャツとボクサーパンツを丁寧に着せてから力強く抱き上げてベッドの上にそっと落ち着かせた。
「すみません。お母さまですよね?」
 ユキエは、蚊の鳴くような声で母に問いかけた。
「今、何か栄養の有るものを作ってあげますからね。無理に動かないでね」
 ユキエは、微かに笑いながら小さく頷いた。
「あなたは、床に転がってなさい!まったく!」
 母に叱咤されて、私は、何も言い返せずに水道の水をコップに半分くらい注いで、それを一気に飲み干した。
「この辺にスーパーマーケット有るの?」
 母が私に聞いてきたので「コンビニの方が、近いよ」と答えた。
「スーパーマーケットって言ってるでしょう!」
 母に、沢山怒られて私は、白い紙に簡単な地図を書いてスーパーの場所を示した。
「何これ?宝探しの地図?グチャグチャで何書いてあるのか分からないわよ!」
 母に、結構怒られて私は、少し凹んでしまった。
「取り敢えず、行ってくるから二人とも静かにしていなさい!」
 母が、アパートを出ていった後、ユキエが私と母のやり取りを聞いていて、我慢していたのか?突然大きな声で笑い出した。
「面白いお母さんだね。本当に……」
 ユキエは、少し涙ぐんでいるようにも見えた。

 約三十分後、両手に買い物袋をぶら下げて母が戻ってきた。
「お待たせしました。まずは、二人ともこれを飲みなさい」
母は、そう言ってペットボトルのスポーツドリンクを二本差し出した。
「キッチン借りるわよ。二人とも元気にしてあげる!」
 母は、手早くキッチンで料理を作り始めた。その間、私とユキエは、渡されたスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干して、二人でベッドに横たわった。
 二十分くらいして、母が手作りの料理を運んできてくれた。
「とにかく、栄養を取らないとね!お母さん特製の鶏のささみ入り卵牛乳粥よ!二人とも、ゆっくりでいいから食べなさい!」
 母が作ってくれた卵牛乳粥は、ほぐした鶏のささ身と小口ネギの刻んだのが入っていて隠し味?で生姜のすりおろしも小さく盛ってあった。