強引な勧誘の結果、彼女は、怪訝そうな表情をあからさまに私にプレゼントしてくれた後、メモ用紙に自分の名前と電話番号を書いて、渡してくれた。私も、その場でリタリンとトフラニールで興奮がマックスに達していた為か?緊張からか?大きく震える手で自分の名前と電話番号をあろうことか、テレクラのポケットティッシュの紙の部分の裏にミミズが這ったような芸術的な文字で何とか書ききって、大きく震える手で彼女に渡した。
「すいません。緊張しているみたいです」
 私の言葉を聞いて、しばらく様子を伺っていた彼女は、何かがツボに入ったらしく手を口に当てて笑い出してしまった。
「ごめんなさい。何か、あなたが、とても面白くて」
「ああ、何だ。良かった!変な奴だと思われなくて」
 相当、変な奴だから彼女は、笑っていた事をその時の私は、理解していなかった。


 施設から退院する日の朝、私は、爽やかな気分で午前六時に目を覚ました。起き上がって小さな洗面所で顔を洗って小さな鏡で自分の顔を見つめた。多少髭が伸びていたが、気にならない程度のものだった。プリントアウトされた、ここで書いた私の手記を自ら読み返して改めて二度と薬物には、手を出すまいと強く自分に言い聞かせ、施設を出る予定の午前十時まで大人しくしていようと考えていた。

 午前十時ちょうど、私は、三カ月半お世話になった千葉市の薬物依存患者の更生施設を無事、退院した。施設長を始め、職員の方々が施設の出口まで見送りをしてくれた。私は、連絡を受けて迎えに来てくれていた兄の運転する車に乗って、取り敢えず千葉市の実家に帰る事にした。車中で兄と私は、特に会話もせずに何かギスギスした空気が絶えず車中を漂っては、少し開けていた車の窓から逃げていくような感覚に包まれていた。