母と一緒に診察室に入ると、私は、何も喋らずに母と精神科医の話し合いだけで診察は、思いの他スムーズに終わってしまった。処方箋が出されて薬局に向かう道すがら私は、母親に何かを尋ねた記憶がある。多分、何の薬が出たのか?子供ながらに知りたかったのだと思われる。
「心配しないで。お母さんに任せておきなさい」
 母にそう言われた私は、意味も良く分からずに頷いて母の言う通りにしようと思った。
 
 自宅に戻った母と私は、午後のおやつを食べながら楽しく談笑していた。母は、時折私の顔を優しい微笑でじっと眺めていた。私は、大好きだった母とのひと時が何よりも楽しかったのだろう。珍しく饒舌に喋り続けていた。

 その日から、私は、母の言う通りに勉強机に向かう三十分前に精神科から処方された薬を服用するのが日課になった。一回二錠の服用だった。最初は、よく意味が分からなかったが初めてその薬を服用してから私は、気分の高揚感とはち切れんばかりの意欲に満ち溢れて集中力の高さと眠気を一切感じない効果によって二、三時間以前の私とは、別人格が宿ったかの如く勉強に精を出す事が出来た。この薬の効果は、ちょうど二、三時間程度持続した。寝る前には、違う薬を二錠、これも母の言う通りに服用した。よく眠れる気がしたのを覚えている。

 数か月後、中学二年の期末テストの成績は、驚くべき変化を遂げていた。全ての科目に於いて学年でも上位に入る成績を収めた私は、嬉しさで心の底から母に感謝の気持ちでいっぱいになっていた。早く、この成績表を母に見せたいと思った私は、下校のチャイムが鳴り響く校舎を足早に後にして走って自宅まで少し興奮しながら帰ったような記憶がある。

「どうしたの?そんなに汗をかいて。今タオルを持ってくるからジュースでも飲んでいなさい」母は、少し驚いた様子で私にそう告げてタオルを取りに洗面所に向かいかけたので、それを制するように私は、「母さん、僕ね、やったよ!」と言って期末テストの成績表を母にやや強引に手渡した。
「全科目合計、平均両方学年でも上の方だよ!」
 母は、少し微笑んで私を愛おしい目で見つめた後、
「よく頑張ったわね。おめでとう!お母さんも嬉しいわ!」
 そう言った後、母は私の頭を撫でてくれた。
「お母さんから、あなたにお願いがあるんだけど……」