「十五万入っているわ。これで買ってきなさい。領収書も貰ってきてちょうだい」
 母は、何を企んでいるのか?不気味な笑顔を浮かべてリタリンの入った袋を躊躇なくゴミ箱に捨てた。

 その日の深夜、私は、あのポルノショップへと足を運んだ。店は、まだ営業していたが、入り口の窓ガラスには、今年いっぱいで閉店する旨を書いた張り紙が貼ってあった。
「おう、また来たか!今日は、どうした?」
 店長は、元気な顔で私を迎えてくれた。
「あの、例のクスリを売って欲しいんですけど……」
 一瞬にして店長の表情が硬く強張って、深く強い溜息を店の奥まで届くくらいに吐き出した。
「マジで?お前、下手すると死ぬよ!」
「服用法さえ間違わなければ、死にません。僕は、アカネとは違います」
 店長は、マルボロに火を点けて考え込んでいたが、ショーケースの鍵を取り出してケースを開けてくれた。
「もう、入荷を止めたからここにあるだけだよ。二ボトル。金は?」
「十五万持ってきました。足りますか?」
「君は、もうこの店の常連だし、賢そうだから信用するよ!本来なら二つで二十五万だけど、在庫処分と言う事で十五万で二つ、二百錠売ってあげるよ」
「ありがとうございます!あと……」
「ん?どうした?」
「このクスリの、入手ルートを教えてください。一生必要なんです!」
 私は、店長に事の次第を細かく説明して、半永久的にこのクスリを使いたい旨を伝えた。
「う~ん、使い方として勉強や受験前に一錠ずつ使うのなら問題は、無いけどね~。さっきのだとリタリンで相当成績が上がったみたいだけど、大体この手のクスリは、常用すると耐性と言って徐々に効かなくなってくる。経口服用でダメな場合は、ミルサーとかで粉末状にしてストローで鼻から吸引すると即効で鼻粘膜から吸収されて脳に回るけど、そうしたら?エクスタシーは、長く使うには、値が高すぎるし何より違法だからね」
 その話を聞きながら、私は、母がゴミ箱に捨てたリタリンの入った袋が、まだゴミ箱の中に残っている事を願ってしまった。
 自宅に戻った私は、直ぐにゴミ箱の蓋を開けて、その異臭に少しむせて咳き込みながら、底の方に丸められた処方袋を見つけて、それをつまみ出した。
「セーフ!」