私は、施設内の様々な人間達を観察しながら、勝手な推測で恐らくここに居る殆どの人間が、いずれ、ここを出所してもすぐに何らかの形で再犯して、シャバの空気を肺の中に充満させる前に、ここに戻って来る事は、間違いないと感じていた。実際、今ここに居る人達の殆どが、再犯者だった。特にアルコール依存症に関して言えば、シャバに出てしまえば、少しの金さえあれば、問題なく購入する事が出来て、結果的に本人の意思が弱ければ、また依存症に陥り、ここに戻って来る確率は、飛躍的に上がってしまう。こんな施設で隔離して管理されている状況も、時期が来て出所すれば、クスリの誘惑は、至る所に満ち溢れていて同じ事を繰り返す可能性が高いだろう。私は、自分自身の見解が、間違っているとは、思えなかった。そう思うと、ここに居る患者や、職員全てが低次元な世界で生きていると蔑むだけの存在にしか感じなかった。

 母が、私に毎日服用させていた薬が、だんだん効き目が悪くなっているような感じがしたのは、私が高校二年生の秋くらいの事だった。母に、そう報告すると、母は、しばらくの間考え込んで、一度に二錠だったその薬を三錠に増やす安易な作戦に切り替えた。
「長い間続けていたから、耐性が生じたのね」
 母は、少し困ったような表情で薬の入った袋を見つめていた。
「母さん、ひょっとしたら、もっと凄いクスリが、手に入るかも知れないよ!」
 母は、少し面食らったような顔をして私を見つめて、
「何て言う薬なの?」
「エクスタシーって言う覚醒剤だよ!知り合いに頼めば売ってくれるかも知れないよ!」
 私は、自らが長年服用していた薬の名前を、母に内緒で調べていた。リタリンと言うその薬は、当時精神科で、難治性のうつ病患者に「最後の切り札」として処方されていた精神刺激薬つまり、覚醒剤の様な物だと知る事が出来た。
「リタリンが、効かないなら、あなたのこれからの人生がまた、低迷するわね。そのクスリは、どこでいくら払えば手に入るの?」
 話に食いついた母を、私は、まるで疑似餌に食いついた大きな魚を逃さぬように慎重にゆっくりと時間をかけて話を引き寄せた。
「百錠で十万くらいだと思う」
 それを聞いた母は、大して驚きもせずに直ぐにテーブルの椅子から立ち上がって自分のタンスの中を弄り始めた。茶封筒に何かを入れた母は、それを私に差し出した。